第113話 収穫した
シリウスは、基本的に食べ物を無駄にしないタイプの人間だ。いくら目的のものではないとしても、せっかくの食料を無駄にするなど認められなかった。
故に、大豆用に持ってきたドラゴンの革袋の口を広げて魔法で固定し、胡桃の収穫を始める。
「チッ、入り口が小さいか」
元は1メートルサイズの相手から採取するための袋だ。流石に5メートルの樹木ほどに巨大化してしまっては入り口の幅が足りなかった。
仕方がないので、シールドを漏斗型に設置し、袋の入り口に胡桃が入って行くように調整。後はドンドン撃たせるために胡桃ガトリング草を煽るだけである。
「所詮は固定砲台、動けないモンスターの攻撃など当たりもせんな」
植物モンスターに煽りが効くかどうかは不明だが、ガガガガガガッと勢い良く胡桃が撃たれている。
なんなら勢いは段々と増しているので、イラついてはいるようだ。
シールドに胡桃が当たる音が激しく響き、そろそろ袋を取り替えようかと思った頃、唐突に静寂が訪れた。
「あ、終わったか?」
終わっていようがいまいがどちらでも良かった。シリウスとしては止まったのならもう用は無いのである。
ウィンドカッター一発で、あっさりと茎を切断し、花が地面に倒れる前にドロップとして魔石と薬効のある百合の花を残して消えた。
「胡桃かぁ……黒糖ときな粉でコーティングするのと胡桃のパンは作るとして、後は食堂のシェフに土産として渡すか」
ドロップを拾いながら、胡桃の食べ方について考えているとシリウスとは反対側に原型を留めていない死体を発見してしまった。
一瞬、嫌そうな顔をしたシリウスは仕方がないのでそれを回収し、ダンジョンから出た。
向かう先は近くのギルドで、見つけた経緯なども含めて説明し引き取ってもらうのだ。
モンスターが居る世界で人の死体を放置するとろくなことにならないため、見つけたら報告又は回収するのが冒険者の義務でもあるのだった。
さて、予定外のことはあったが、本日は予定より早く行動しているため時間的には問題ない。
シリウスはもう一度58階に戻って大豆の収穫を始める。
精神的なショック?そんなもんはない。伊達に30年生きていないのだ。
「……8、9、10。よし、目的達成」
500キロは入るだろう袋が10袋。これを全てシリウスが仕込むのかと言えば、そうではない。
始まりは確かにシリウスが仕込んだ味噌と醤油ではあったが、食堂で使う分量をシリウス個人で作るのはどう考えても無理があるため早々に委託したのだ。
自分で仕込む分は取り分けて、残りは委託した村に卸す。
因みに、普通の大豆でも味噌や醤油を作っているが、シリウスが学園に居る間はシリウスが取ってきたモンスター産の大豆を使う契約である。
尚、委託先はサウス公爵領都から馬車で一週間もかかるくらい田舎で、畑の作物を売ることでしか金銭を得られないような村だった。
なので、シリウスが仕込みを教え、倉から何から建てて給料を払い作るようにお願いしたのである。
因みに、食堂分が確保出来ているならば他にも売って良いとは言っているので、この地域特有の調味料として広がってきているが、無名に近い。
この世界の人々は『素材の味やスパイスで充分美味しい』と満足しているか『料理に使う物は料理人が把握していれば良い』という人達ばかりなので、新しい味を求めて調味料を作ろうとする人が少ないのだ。
おそらく、学園の生徒の家に売り込みに行けば売れるのだろうがシリウスがやるわけないし、村人たちに出来るわけがなかった。
――が、後日。
シリウスが食堂に味噌と醤油の樽を卸しているところを偶然見かけたシャルロット嬢が、食堂の職員になんだったのかと問い、それが味噌と醤油でありサウス公爵領で買えると聞いて父親に頼んで取り寄せてもらった。
そして、兄のジークから卒業生たちに懐かしい味だと広まり、一気に人気となるのであった。
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