第37話 夏期休暇前の相談


 マナー講座が終われば夏期休暇。領地に向かう貴族達や、実家に帰る平民生徒も居れば、職場体験としてこの時期各職種ごとに出されるアルバイトに申し込んだ生徒も居る。

 

 実は遠い地に家がある生徒のために寮も存在しているのだが、夏期休暇中でも追い出されることはないので将来のために王都に残る選択をする生徒が多いのだ。


 そう、夏期休暇はただの休みではない。家を継ぐことが決まっていれば領地経営を学び、その他就職のために出来ることをやる期間なのだ。


 因みに教師も休暇となっているが、学園には資料や道具が揃っているため毎年ほとんどが学園に居る。

 ただ、今年のシリウスは担当教科を増やされたせいで行けてなかったフィールドワークに行く気満々だ。

 


 そんなシリウスの出鼻を挫く存在が、シリウスの研究室を訪ねて来た。


「お時間取らせて申し訳ございません。少しご相談したいことがあるのです」


 公爵令嬢シャルロット・ウエストである。

 シャルロット嬢は家族に己が転生者であることを伝えられていなかった。

 確かに前世の記憶があるが、これまでシャルロットとして生きた記憶もしっかりあるのだ。

 人格が変わったということもなく、多少前世の闇がポロリすることはあっても公爵令嬢としての品格を損なわずに生活している。


 シャルロット嬢としては少し変わった記憶を思い出したという程度でしかなかった前世の記憶だが、しかし、自分が転生者と伝えて家族の態度が変わってしまったらどうしようという当然の悩みも出来てしまった。


 公爵令嬢としては、きちんと報告して乙女ゲームの情報も共有するべきだと思っている。

 しかしシャルロットとしては『お前はシャルロットじゃない』とか『元のシャルロットを返せ』とか『転生者などというわけのわからん者を公爵家に置いておけるわけがない』とか言われたらどうしようと、マイナス方面に想像してしまうのだ。


 勿論、家族はそんなこと言わないと思ってはいるのだが不安は消えないのである。


「……あぁ。お前が転生者という話か」


「え?」


 私に相談事?と、自分は生徒に相談を受けるようなタイプの教師ではないという自覚があったシリウスは、そういえばコイツ転生者だったと思い出してそれなら確かに自分だなと思って言っただけなのだが、これから相談内容を話す予定だったシャルロット嬢からすれば『何故それを!?』となる。


 驚きの表情を隠さずシリウスを見るシャルロット嬢に、シリウスは何故知っているのかを説明した。


「いや、入学の時に……なんだったかドキドキ?トキメキ?いや、キラキラ?まぁ、なんとか学園パラダイスの世界がどうのこうの言ってたぞ」


「あっ!」


 シャルロット嬢の顔が羞恥で赤く染まっていく。まさか聞かれていたとは思っていなかったのだ。


「恐らく他の人には聞こえていないだろうが、私はハーフエルフなので耳が良いんだ」


「……そうでしたか」


 恥ずか死にたくなったが、どうにか抑えて平静を取り戻したシャルロット嬢は、一応客なので、とシリウスに出されたお茶を飲んで……美味しさに目を見張った。


「美味しい…」


 見た目は通常の紅茶のようだが甘く華やかな香りと味わいに、何処の茶葉だろう?と記憶を探るシャルロット嬢に対して、シリウスは淡々と何でもないことのように告げる。


「うちの茶の木は精霊たちのせいで精霊樹になってるからな」



 シャルロット嬢は思った。


(相談に来たはずですのに爆弾発言ばかりで何から言えば良いのかわからなくなりましたわ……)


 そもそもシリウスに相談しようとするのが間違いだったと、内容を話す前にシャルロット嬢は気付き始めていた。

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