第5話 みんなで古着屋に行ってみようか?

 金曜日、古着のコートを着て学校に行った。学校に着くと凛がママのことを聞いてきた。あたしのカレー食べて治ったと言ったら、「今度食べてみたい」と言うので、うーんと辛いやつを食べさせようと思った。


 塾に行くと、いつもの三人は既に座っていた。通路を挟んだ蓮の隣に座ると、蓮がママのことを聞いてきたので、もう大丈夫と答えた。すると蓮が小さい声で、


「そのコート、カッコいいね。どこで買ったの?」


「原宿。原宿の古着屋さん」


「へー。俺も湊もPコート着てるんだけど、もう一着欲しいって話してたら、詩がかっこいいの着てて、どこで買ったんだか聞いてみたかったんだ」


「原宿のドック・ストリートの古着屋アップル。先週の日曜日行ったんだよね」


 と凛が低い声で答えた。


「湊、今週日曜日、みんなで古着屋に行ってみようか?」


「そうだな。たまには息抜きが必要だし。彩葉も行こうよ? コート買いたいって言ってたよね」


「私はいいわ」


 ちょっと湊が沈黙した後、


「あ、そう。じゃ、四人で行く?」


 と湊が凛に向かって言った。


 ぎゃー、何言ってるの、湊。


「いいね、行こうよ、詩?」


「先週も、今週も?」


 と答えたところで先生が入ってきた。みんな何事もなかったようにテキストを広げた。


 え? みんなで古着屋に行くの? 嬉しいけど、この展開についていけない。勉強全然できないけど、まぁいいか。今を生きるのだ。


***


 帰り道、みんなでラインの友達登録をして、日曜日の待ち合わせの場所と時間を決めた。これで湊にラインできる。凛と蓮が既にライン交換していたことはびっくりだった。


 彩葉は「親が厳しいから来れない」と言って寂しそうだった。あたしは申し訳ないような、でもちょっと嬉しいと感じた。あたしは嫌なやつかも。


 みんなとバイバイし、あたしと湊が同じ方向に向かう。湊は自転車を押して歩いている。と、その時――


誰かが右腕を引っ張り、湊の腕に手を伸ばそうとする。


 必死に抵抗したけど、あたしの手が湊の肩に触れた。湊もびっくりして振り向く。とっさに、


「日曜日、楽しみだね」


 と言った。


「いいコートあればいいな」


 と言って湊は慌てて「じゃあね」と自転車を漕ぎ出し、去って行った。


 今日は自然に二人で帰れた。家が同じ方向だから当然。あの三人で帰るから反対方向に一旦行くんだなと納得した。次からはこの作戦だ。みんなでバイバイして自然に一緒に帰ろう。


 そして、日曜日は彩葉に負けずにあたしもピンクのリップをつけていこうと思った。湊はどんなコートが好きなのか楽しみだ。


***


 凛は、蓮がラインで詩のコートのことを聞いてきたので、原宿で買ったと既に月曜日に答えていた。今日、蓮が知らんぷりして詩にそれを聞いていたから、凛はラインで答えたことを口で繰り返した。そして確信した。


 ――蓮は詩が好きだ。


 ラインでもさりげなく詩のことを聞いてくる。でも残念なことに、詩は湊のことが好きだ。


 詩は凛を天然でぼーっとしてると思っているようだけど、そんなことはない。幼馴染だから凛は詩のことをお見通しだ。気づいてないのは詩のほうで、詩は凛が誰のことを好きかとか、いや、好きな子がいることさえ気づいていない。


 中学の時、詩が好きな子を教えてくれたけど、そんなことは簡単に推測できていた。呆れたのは、凛もその子のことを好きだったのに、詩はそれに気づいていなかったことだ。


 そんなことを思い出しながら、凛は不思議に思った。


 ――なんで詩や蓮は、私が蓮のこと好きなことに気づかないのだろう?


 私は蓮が好き。かわいいし、楽しいから。日曜日、もっと蓮に気づかれるほど話しかけてみよう。詩よりも私の方がいいと思わせたい。彼となら漫才もできそうな気がする。そんな彼氏が私は理想。


***


 蓮は、湊と彩葉がただならぬ関係であると確信している。いつも三人で帰ると、彩葉が「早く蓮は帰れ」と目で言っているような気がしていたからだ。でも湊に聞くと「ただの友達」と言う。


 蓮は大人っぽい顔つきの詩が好きだ。塾のクラスが一緒になった時、蓮は湊に「多分告る」と宣言していた。しかし詩の様子を見ていると、どうも詩は湊のことが好きなのではないかと思えてきた。凛に探りを入れたが、なかなか聞き出せない。


 今週の月曜に詩が新しいコートを着て塾に現れた時、ますます大人っぽく見えて気になってしょうがなかった。今日、コートのことをきっかけに詩に話しかけたら、湊が「古着屋行く?」とナイスなアシストをしてくれて、日曜日に詩と凛、湊と一緒に出かけることになった。


 詩ともっと一緒にいたい。話がしたい。二人だけになれればいいなと思った。


***


 彩葉は、湊から「蓮が詩を狙っている」と聞いていたから、湊が「みんなで古着屋行く」なんて言い出したのを呆れて聞いていた。蓮と詩が二人で行けばいいのに、なんで湊や彩葉まで付き合わなければいけないのかと思って断った。


 詩が湊のこと好きなことはバレバレだった。いつも塾で詩が湊のことを見ているのを、彩葉は気づいている。


 ――湊は私の彼氏です。


 と言いたかった。でも湊は「受験が終わるまで内緒にしよう」と言う。意味が分からなかった。


 だから木曜の夜、ピンクのリップに気づかない湊に、強引にキスをした。リップを水曜からつけていて、何度も顔を近づけてみせたのに気づかなかったので、こっちからキスした。


 キスのあと、湊は嬉しそうな顔をしていた……ように見えた。間違いない。あの顔を毎日見たいと思った。湊は私のものだと確信した。


***


 湊は木曜日、「全然違う!」と言う彩葉の顔を見て、なんだろうと思っていたら、彩葉が湊の目を見ながら近づいてきた。何が起きたか分からなかった。


 帰り道、なんか唇が気持ち悪いと思って指で触れて気づいた。リップクリームがついていると分かった。その時初めて、彩葉とキスしたんだと分かった。


 彩葉といると、いつも時間があっという間に過ぎる。別れた後に「あんなこと言っていた」「あんな仕草してた」と思い出す。そして今は、彩葉の暖かい唇の感触と髪の優しい匂いを思い出した。


 せっかく日曜日に原宿行こうと彩葉を誘ったのに断られた。てっきり来ると思った。二人で抜け駆けしてデートできればと思ったのに残念だ。蓮のためと思っただけだったけど、彩葉が来ないとなって行きたくなくなった。でも言い出しっぺだから仕方がないと思った。


 それにしても、詩のことを話すと彩葉の機嫌が悪くなるのはどうしてだろうと湊は不思議だった。


***


 アップルの店長は、詩が湊に触れるように古着のコートの右手を上げるように念じた後、日曜日に向けていくつかコートを準備しようと考えている。


 ただ、湊くんや蓮くんの身長や体格がよく分からない。


 さらに問題は、詩ちゃん、凛ちゃん、彩葉ちゃんの女子と、湊くん、蓮くんの男子の関係がよく分からないことだ。


 店長の理解はこうだ。


 ――詩ちゃんと彩葉ちゃんは湊くんが好き。

 ――凛ちゃんは蓮くんが好き。

 ――湊くんがどう思っているかは不明。


 だからとりあえず、詩ちゃんと湊くん、そして凛ちゃんと蓮くんを仲良くするようにすればいいかなと考えた。


 湊くんには詩ちゃんのコートと同じ千鳥格子を勧めればいいかな。凛ちゃんと蓮くんにはグレンチェックかブラックのコートなんかどうだろうかと考え、お店の目立つところにコートを配置することにした。


------------------------------------

 読んで頂き、ありがとうございます。

 気に入って頂けたら、フォローや応援と評価をもらえると嬉しいです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る