悪性リンパ腫で闘病中の12歳の灯(あかり)と、灯が想いを寄せる主人公の拓真(たくま)との素敵な恋物語です。
拓真は地元の群馬高崎を出て、東北大医学部への進学を決めているさなか、灯の病状はステージⅣを告げていました。
生前、あと何回会えるのかも分からない。
兄として灯を思いやる哲哉が抱く拓真に対する複雑な気持ちに注目してみてください。登場人物それぞれの心がかき乱されて行く展開から目が離せなくなります。
息絶え絶えながらも、必死に命を繋ぎ止める灯。
どんな時も側で励まし続ける妹思いの兄・哲哉。
定期試験の最終盤で身動き取れないままの拓真。
この三者の心境たるや……
灯が呼び続けたのは哲哉の名前ではなく、拓真の名前という事実。
やり場のない感情を抑えきれない哲哉。
後に駆けつけ冷静な理性で迎える拓真。
この後、二人の間に湧き起こる感情移入は必至です。
これには思わず瞳が揺らぎ喉元が震え、視界が滲みました。
余命幾ばくかの12歳の少女が綴った手紙にも心を深く打たれました。
あの時の藤の花色の風になって、純粋で無垢な想いを伝えるのです。
憔悴し切った灯になり切っての創作として、
こだわり抜いた一言一句。
便箋一杯に込められた愛のことば。
二人で過ごした藤棚の下で伝えてしまった拓真の優しい嘘が、消えない後悔の余白として刻まれます。
しかし、灯はその優しい嘘に気づいていました。
そこに彼女の心地よい優しさを感じます。
目を閉じれば、瞼の裏を藤の花色が染め上げていくように。
「もう一度同じ人生を繰り返したい」
言葉に込めた願いの先が素敵なエピローグに繋がっていきます。
あなたの人生のどこかで繋がりますようにと……
病という運命を超えた命の煌めきを、あなたとの想いで灯したい。
心の強さで変えられることを、運命とは言いません。
願わくば、同じ逆境をあなたとなら今度こそきっと乗り越えられる。
そして優しい嘘のない本当のあなたと二人で生きていきたい。
藤の花の花言葉『決して離さない』――想いの強さがセリフとなって、命の芽吹く風となって、再び巡りあわせる展開は秀逸です。
忘れられない恋物語。
忘れたくない、恋の、恋、の……
あぁ、ダメですね。
つい思い出してしまう。
歳はとりたくないですよ。
どうしようもなく
涙腺が緩くなってしまいますから。
いつの時代もこの物語が
私たちのもとにあることは
幸せなことなのかもしれません。
気づけば、
涙腺を許して。
藤色の涙がこぼれないように。
空を見上げて。
どこまでも澄んだ
美しく色褪せない
藤色の風を眺めて。
素敵な物語を
ありがとうございました。
【レビューコンテスト応募】
優しすぎる嘘は時に、人を深く傷つけます。
しかしそうとわかっていながら、その嘘を信じたふりするのもまた優しさなのでしょう。
恋も知らないであはれ、12歳の少女である灯に残された時間はありません。
花の蕾は膨らみ、清純かつ艶やかな香りを雌しべに蓄える。それなのに先に葉は枯れ落ち、茎は瘦せ細り、根はみるみるうちに腐れていく。
「あー、いいね。手が届くよ」───手を伸ばして触れた藤の花からは芳醇な薫りがする。しかしその先にある未来には触れられず、手からは病室の消毒液の臭いしかしない。紙風船のような命を病魔が押し潰し、少女から空気が奪われてゆく。
それでもなお、少女は幸せの意味を識(し)る。愛がゆえ、閉ざされた未来の無垢───従兄の拓真との逢瀬がゆえ。藤の花の美しさゆえ。
「すっごい綺麗ーっ!」───花は咲くから美しいけれど、咲けずに蕾のまま落ちた花は灰になって風に消える。この世界は美しく綺麗なものたちに無常であり残酷です。
それでも、残された者たちの心には種が植わる。その種は悲しみの涙を注ぐほどに大きくなり、新たな花を咲かせます。
彼の心に咲いた花からは、あのジャスミンの香りがするでしょう。あの日に付いたひどい嘘の数だけ、棚を紫で埋め尽くすでしょう。優しすぎた嘘ほど、彼の心を深く傷つけたものはないのでしょう。
そしてそうとわかっていながら、その嘘を信じ続けるのもまた強さなのでしょう。
永遠に嘘のままとなってしまったその花言葉を、本当にするまで。
いつかまた会える、その日まで……
切なくも可愛らしく、無常ながらもいじらしい約束の物語です。
感動の一作です、是非お読みになられてみてください。
【レビューコンテスト応募】
この物語が描くのは、少女の無垢な恋心が辿る切なさと、その彼方にある小さな希望です。
灯は八歳のときに悪性リンパ腫を患い、それ以来、闘病生活を続けてきた十二歳の少女。
彼女が恋心を寄せる相手は、その春に東北大学医学部へ進学する従兄の拓真です。
そして、この二人の物語に奥行きを与えているのは、拓真へ複雑な感情を抱きながらも、妹の想いだけは叶えてやりたいと願う兄の哲哉の存在でしょう。
本作は、幾つもの思いが交差する物語なのです。
作中の灯は、ただ一途に拓真を慕います。
しかし拓真は、灯の想いに気づきながらも、彼女を妹のようにしか見ることができません。
本作が語るのは、美しい心の物語です。
けれど、美談だけを描いているわけではありません。
登場人物たちには、現実に起こり得る事と同じ事態が起こります。
それは、読む者には残酷なまでに無情な事態とも感じられてしまうのです。
たとえば、念願だった拓真とのデートの最中、長い闘病生活によって筋力が衰えた灯の起こす、思いもよらない失敗。
あるいは、拓真が灯の最期まで彼女のもとへ駆けつけられなかった理由も、決して劇的なものではありません。
だからこそ、その現実味が読む者の胸を強く締めつけるのです。
地名や道路名、商業施設などの実在する名称を織り交ぜた描写も印象的です。
こうした作劇演出によって、灯と拓真が型通りの物語の中の登場人物ではなく、現実と地続きに居る人間として立ち上がるのです。
灯の恋を、ただ美しいだけの絵空事に終わらせない意図は本作で最も美しい場面にも表れます。
それは灯が勇気を振り絞って胸の内を打ち明ける瞬間です。
そのとき拓真は彼女に嘘をつきました。
もちろん、それは灯を傷つけまいとする優しさから生まれた嘘です。
でも、その言葉は彼自身の胸にずっと残りました。
純真な灯へ憐憫や同情を愛情して語ってしまった自分を、彼は容易に許すことはできませんでした。
でもその言葉を聞いた灯は、込み上げる想いを抑えきれず涙を流すのです。
ただただ嬉しかったから。純粋だから。拓真が好きだから。
この物語は地に足をつけて描かれます。
だから都合の良い奇跡は起こりません。
現実がそうであるように、物語もまた、なるべくしてなる結末へ向かっていきます。
だからこそ、読者は願ってしまうのでしょう。
どうか、奇跡が起きてほしい。
どうか、想いが報われてほしいと。
物語の迎える結末。
そこに救いはあったのか。
答えは、ぜひ物語の中で確かめてほしいと思います。
きっと失望することはありません。
なぜなら、本作が最後に描くのは、たとえ人は別れることになっても、誰かを想い続けた心は決して消えない。そうであって欲しいという願いだからです。
悲しい物語です。
でも読み終えたあとに胸へ残るのは、絶望などではないでしょう。
大切な人を想った時間は決して無意味ではないと信じられるはずです。
ここに描かれたのは、切なく儚い願いを受け止める物語なのですから。
【レビューコンテスト応募】
主人公は、地元・群馬から仙台の医学部へと進学する、拓真。
彼には、癌治療で入院中の従妹(いとこ)・灯がいます。
そして、灯の兄・哲哉。
妹に献身的に寄り添い続け、いつも死の気配に怯えながら、どこか狂気に近い愛情で、拓真にある願いを託します。
───しかし、その一つの願いが、拓真に嘘をつかせ、すべてを変えてしまう⋯⋯。
三人の繊細で純粋な心が、丁寧で読みやすい筆致で描かれ、
ジャスミンに似た藤の香りが、ときに切なく、妖しく読者を包み込みます。
作者様の真骨頂である、女性の美しさ、可愛らしさ、そして危うさ。
本作でも余すことなく発揮され、読者も知らずと心を奪われてしまうでしょう。
ただの悲恋に終わらない本作。
ぜひ一度、読んでみてください。
悪性リンパ腫と闘う十二歳の少女・灯。仙台の東北大医学部へ進む拓真。妹を何より大切に思う兄・哲哉。
これは、春から夏のほんの短い季節に交錯する、三人の切実な想いを描いた恋愛小説です。
灯の恋心はひたむきで、拓真は不器用なほど誠実で、哲哉の感情は苦しいほど切実です。
誰か一人だけが報われれば済む話でもないからこそ、登場人物それぞれの気持ちが胸に迫ってくるのです。
病室で交わされる何気ない会話や、小さな約束、季節の景色のひとつひとつがとても丁寧で、読み進めるほどに心を掴まれます。
藤の花や金魚といったモチーフも美しく、物語をいっそう深くしてくれました。
言えなかったこと、伝えたかったこと、ただ生きていてほしいと願うこと。
人の想いや気づきはしばしば遅すぎるけれど、それでも願わずにはいられない――そんな生の哀しさと尊さが滲み続ける物語でした。
人は誰かを失い、また自分も誰かの前から去っていく。
それでもなお、誰かに会いたいと願い、言葉を交わし、約束を結ぼうとする。その営みが人生を美しくしているのかもしれません。
素敵なお話をありがとうございました。
この作品を読むのは、かれこれもう三度目になる。
読むたびに、心が洗われる、とても美しい作品だと思う。
なかでも第四話の灯の手紙は、圧巻だ。
最初で最後のラブレター。
この手紙が大きく主人公拓真の心をゆさぶり、彼の中の灯への思いを本物の恋へと昇華させる。
夭折した灯の心が、その後の拓真の心の中にたしかな生命、魂となって息づく様子がうかがえる。
ラストはそんな二人に奇跡が起こる。
小さなともしびがジャスミンの香りを伴って、拓真の心にひそやかな思いとなって残り続ける、そんな淡く切ない心情をどうぞ手に取ってみてください。きっとあなたの心にも、小さな灯がともることでしょう。
筆者ならではの深い心情描写は、他で望むことが難しいのではと思うほど、真に迫った作品です。
たった八歳で悪性リンパ腫に罹り、小児病棟で長く過ごしてきた灯という少女。
そんな灯の闘病を支え、誰よりも献身的に見守り続けてきた兄、哲哉。そして、従兄弟の拓真は医大生となって、失恋をしたばかりだった。
三者の情愛と戸惑い、あるいは失望が複雑に絡み合う。
苦しくなるほど切ない三人の心情が、ひしひしと胸に押し寄せてきます。
恋に焦がれていた灯には、藤の花がとてもよく似合います。
藤の花には「離れない」という花言葉があるそうですね。
藤の香りに委ねながら、三人の行く末を是非、ご覧ください。