江戸時代に転生したコンサルタント、最果ての地でカニを売って幕府を買収する ―天明の大飢饉を完全回避して北の王に君臨する計画―
閑話:宗谷・美食革命(ガストロノミー) ―自身の殻を鍋にする、悪魔的蒸し焼き―
閑話:宗谷・美食革命(ガストロノミー) ―自身の殻を鍋にする、悪魔的蒸し焼き―
宝暦十年(一七六〇年)(冬) 蝦夷地・宗谷
「……おい、本当にこれを食うのか?
いつも捨ててるやつだぞ」
鉄太が、焚き火の横に積み上げられた
『水ガニ(ズイガニ)』を見て、不安げに顔を歪めた。
宗谷の浜では、身が詰まっていないカニや甲羅が柔らかいものは、ただのゴミだ。
「いいから見てろ。
いつもお前らが食ってるのは、焼いただけの苦いカニだろ?」
俺は五歳の短い腕をまくり、手際よく指示を出す。
「鉄太、そのデカい甲羅を洗ってこい。
他の奴らは中身を全部かき出せ。
殻は捨てるな、あとで使う」
子供たちは「飯が食える」という一念で、ブツブツ言いながらも必死にカニと格闘し始めた。
前世のBBQ知識と、食のコンサルで得た技法を、この江戸の最果てで再現してやる。
まず、甲羅を皿代わりにする。
そこへ、少量だけ精製に成功した「自家製塩」を少々。
さらに、浜辺に自生しているハマボウフウの茎を細かく刻んで散らす。
これは和製ハーブだ。爽やかな香りが、カニ特有の泥臭さを消してくれる。
「……ほうら、焼けてきたぞ」
パチパチと爆ぜる焚き火の上で、甲羅の中の身が、自身の水分でグツグツと煮え始めた。
カニの味噌が溶け出し、塩と野草の香りが混ざり合う。
潮風に乗って、暴力的なまでに美味そうな匂いが周囲に立ち込めた。
「な、なんだこれ……匂いだけで腹が鳴るぞ……!」
鉄太が喉を鳴らす。
他のガキどもも、獲物を狙う獣のような目で甲羅を見つめている。
「よし、食え。
熱いから気をつけろよ」
俺が許可を出すと、子供たちは一斉に指を突っ込んだ。
「――っ! うめぇ!!」
「なんだこれ、甘い!
たまに家で煮て出されるカニは、身が縮んでパサパサで食えたもんじゃねぇのに!」
「この、緑の草がいい匂いなんだ。
勘太、これ本当にいままで捨ててたカニかよ!?」
当然だ。
彼らが普段食べているのは、真水で煮すぎて旨味が抜けたものか、
直火で焼きすぎて身が縮んだもの。
俺が教えたのは、『自身の殻を鍋にして、旨味を閉じ込める蒸し焼き』だ。
さらに、適正な塩分がカニの甘みを数倍に引き立てている。
「おい、勘太。
お前、実は海神様の子供なんじゃねぇか?」
口の周りをカニの出汁だらけにした鉄太が、本気で畏怖の混じった目を向けてきた。
「さて、どうだかな。
だが、俺の言うことを聞いていれば、これからもこういう美味いもんが食えるぞ。
……さあ、食ったら作業だ。
その殻を全部砕け。
来年の春、この『殻の粉』を畑に撒けば、お前らの家の野菜は今の倍はデカくなる」
「倍!?マジかよ!」
「やる!俺やるよ!」
さっきまで「ゴミ運び」だと文句を言っていた連中が、今は目を輝かせてカニ殻を叩き潰している。
砂と殻の粉が舞う。
勘太は焚き火のそばで、完食した甲羅を見下ろし、ほくそ笑む。
この時代の人間は粗食に慣れている。
だが美食が嫌いなわけではない。
そして、一度「美味しい思い」をした人間は、その味を忘れない。
(……よし。これでこいつらは、俺の『社員』になった)
「勘太、それ喰わないならもらっていいか?」
「…鉄太、お前さっき人の倍は喰ってたよな、喰いすぎだ。」
餌付けしすぎたかもしれない…。
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