第4話 デートは絶対行くべきですっ!



放課後。


俺は階段をあがり、図書室に入った。


落ち着いた雰囲気に加えて、どこかから古書の香りが漂ってくる。


カウンターには俺と同級生くらいの小さな女と、俺の姉、採葉さいば小豆あずきがいる。


折角不登校をやめてしまったというのに、相変わらず髪の手入れはおこなっておらず、ボサボサだ。


一方、俺の後ろにちょこんと存在している笹井ムゥは、近くに置いてあったフランスの童話集に夢中になっていた。


(この場でちゃんと喋れそうなのは俺だけか...)


俺は覚悟を決めて、言葉を出した。


「おい、姉さん!」

「なにぃ〜?」

「何の為に俺とこいつを呼んだんだ?」

しゅうくんの彼女を見よぉかなぁって。」

「柊くんの事だから、彼女に乱暴するかもだしぃ〜。」


なるほど?


つまりこいつは俺に彼女がいる事を知り、それを確かめようと呼んだわけか。


付き合うフリ﹅﹅という事がバレておらず、安堵する。


だが、ムゥがその瞬間、爆弾を投下した。


「いえ、私と柊一君は付き合っていません」

「「「......え?」」」


うわぁっ!やりやがったコイツっ!


「え?じゃあどういう関係ですか?」

「仮の恋人、と言ったところです。」


まずいぞっ!このままだと———


「なんでそんな事したのぉ〜?」

「政略結婚を回避する為です。」


?が図書委員達の頭に流れていく。


その後、俺が全てを丁寧に説明する事で事なきを得たのだった。




————————————————————


「なるほど...それは大変でしたね。」

「でも、本当にいぃの〜?」

「はい。私、あの人はそんなに好きじゃないので。」


誤解を解き、全員で話していると、急に高柳が言った。


「じゃあもっとデートとか行けばいいじゃないですかっ!」

「いやいやいやっ!

そういうのは然るべきペースで———」

「ダメですっ!認めませんっ!

絶っっっっっっっっ対に行くべきですっ!」

「千代ちゃんもそう思いますよねっ!?」


急に話を振られた生徒会書記、筒井千代の肩がビクンと揺れる。


(というか、なんで生徒会が......?)


しかし、俺のそんな疑問をよそに、話が進んでいく。


「絶対行った方がいいですよっ!」

「だけど真衣ちゃん、そういうのには個人のペースってものが———」

「その"ペース"に引っ張られて恋人らしい事もできずに終わったらどうするんですかっ!」

「それに、お二人はまだ帰宅部なんですよ?時間の調整くらいできますよっ!」

「でも.........」

「行かせてください。」


ムゥがはっきりとした声で言った。


「私はこのまま柊一くんと別れるのは嫌です。折角ならデートも行きたいです。」

「それに、デートに行ってれば、両親も結婚をとりやめてくれるかもしれません。」


「だからすぐっ、行きたいです、デートッ!」




————————————————————


今日は日曜日。

俺は今日、デートに行く事になった。


場所はこの前喋っていた猫カフェだ。


姉に勧められ、少しオシャレな服を買ってみたが、あまり似合わない様な気もする。


外に出ると、天気は綺麗な晴天だった。


爽やかな風が吹き、紅葉もみじは色づき始めている。


俺は待ち合わせ場所に急いで向かった。




待ち合わせ場所には、既にムゥがいた。

なぜか古文単語帳を開いており、いつもとは違う、知的な表情で立っている。


「ごめんっ。待たせた...よな......?」

「いえ、お構いなく」




猫カフェに入ると、たくさんの猫がお出迎えしてくれた。


俺の方に近づいてきたやつは、どうやらマシュマロという名前らしい。


白くてもっちりとしたボディが印象的だ。


(猫って、案外可愛いんだな......)



「ほわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

俺がそう思っていると、ムゥの悲鳴の様な声が聞こえてきた。


どういう事だっ?!

猫に頸動けいどうみゃくでも切られかけたのかっ!?


しかし、俺がムゥの方を見ると、状況は想像の真逆であり、ムゥは四方を猫に囲まれて、固まっていた。


ムゥの表情が若干幸せそうになっている。

「これが......楽園エデンッ......!」という声が聞こえてきた。


猫がムゥの身体に乗る。


ムゥの柔らかそうな身体をクッションにして、寝始めるやつまで現れた。


俺が店員と協力して猫達を一旦引き剥がす。

ムゥが「私の猫ちゃん......。」と哀しそうに呟くのを横目に見ると、少しだけ切ない気持ちになるが仕方ない。



こうして俺達の初デートは平和に終わった。




————————————————————


「先程はすみません。見苦しい姿をお見せしてしまって。」

「いや、大丈夫だ。」

「それと...ありがとうございます......。

あのままでは楽園エデンに堕ち、二度と戻れなくなるところでした。」

「え?あぁ、それも大丈夫だから、気にすんなよ。」


ムゥが不安そうに俺を見る中、俺はあの時のムゥの姿を思い出していた。


普段は見せないムゥの嬉しそうな顔。


無表情なアイツに、あんな顔をさせられるのかと思うと、猫に尊敬すら覚える。




(俺も、ムゥにあんな顔、させられるか...?)


そんなくだらない事を考えながら、夕暮れ時の道を歩いていた。



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