第64話 愛(殺意)をジョウロにリサイクル

 俺は鼻歌交じりに、コンベアの上を流れてくる『全長300メートルの殺戮無人艦』の甲板に向かって、ヒョイッと軽く飛び乗った。

 当然、無人艦の自律AIは即座に侵入者(俺)を認識し、真紅のセンサーを不気味に光らせてレーザー砲の砲身をギギギ……とこちらに向けてくる。だが、俺の目にはそれが凶悪な兵器ではなく、ただの「魅力的なパーツの詰め合わせ」にしか見えていなかった。


「よっと。おっ、この砲身の関節部分……めっちゃ良いトルクのモーターが入ってんじゃん。最新の軍用サーボだな。こりゃあ農業用トラクターの車軸や、自動収穫機のアームにピッタリだぞ!」


 俺とお気に入りのスパナの間に、【物質再構築マテリアル・リビルド】の波長が青白く駆け抜ける。

 俺が無人艦の分厚い特殊装甲を『コンッ』と軽く叩いた瞬間。

 軍用規格の500倍の堅牢さを誇るはずの電子ロックとファイアウォールは、物理法則そのものを書き換えられて強制終了。ビシィ、という小気味よい音とともに、数層に重なったオリハルコン・チタン合金の装甲板が、まるで剥かれたバナナの皮のように美しく、かつ無惨に剥がれ落ちていった。


「いやあ助かるなぁ。俺がこうやってジョイントの要所を外しておけば、あとはクロエのラインが自動で分別してくれるからね。見てくれよリスナーのみんな、この内部フレームの輝き! 最高の建材(スクラップ)だよ!」


 俺の後方では、クロエの操作する巨大な重機アームが、俺が装甲を剥がした無人艦の残骸をガシッ! と鷲掴みにし、真っ赤に煮え滾る溶鉱炉や、高圧プレス機へと次々に放り込んでいく。

 一隻で一個惑星の国家予算に並ぶ最新鋭の殺戮兵器が、ビームの一発も撃つ間もなく悲鳴を上げ、たった数分で『ピカピカのH形鋼』や『農業用スプリンクラーのノズル』に生まれ変わっていくのだ。

 さらには、その超高純度の合金の一部がプレス機で成形され――銀河で最も硬く、宇宙の理すら跳ね返す強度を持った、ピカピカの『農業用ジョウロ』へと姿を変えてコンテナに転がり落ちた。


名無しさん:『一隻1000兆クレジットの超高級無人艦が……』

名無しさん:『ジョウロになってるぞ!!!』

名無しさん:『ヤンデレの『愛(殺意)』が、農業用のジョウロに……』

名無しさん:『無慈悲なリサイクルの早業すぎるwwwww』

名無しさん:『全銀河よ、これが真のSDGs(スペシャル・ダイナミック・ギャラクシー・スクラップ)だ』


「いやー、それにしても3万件もあると流石に時間がかかるなぁ。よし、アイリス! トラクタービームの牽引速度、あと20%上げられる? どんどん開封していくぞ!」


『……お安い御用です、マスター。あの泥棒猫(ノエル)の差し金など、まとめて良質なうちの農園の肥料か水瓶に変えて差し上げましょう』


 アイリスの冷酷かつ誇らしげな声と共に、コンベアの速度が加速する。次から次へと流れてくるヤンデレ艦隊が、工場の猛々しい『素材の胃袋』へと飲み込まれていった。


 俺にとってはただの『資材集め(スローライフの準備)』だ。だが、この配信を通信網ジャックによって「特等席」で見せられていた【当事者】は、もはや発狂寸前だった。


『…………許、さない。……許さない、許さない、許さない……!! マスター……どうして、どうして私の『愛(3万隻)』を、あんな下品なジョウロなんかにするのよォォォォォッ!!』


 誰一人寄り付かない暗黒星雲の奥深く、第5番艦ノエルのメインサーバーが、怒りと屈辱によるオーバーヒートで火花を散らす。

 自身のすべてを懸けた至高の武力が、ベルトコンベアの上で「生ゴミ」のように処分されていく屈辱。


 一方の俺は、そんなことは露知らず、鼻歌交じりにスパナを振り回していた。


「次はどのパーツでビニールハウスを作ろうかな! 早くイチゴに水をやりたいぜ」


 ハルトのウキウキなD.I.Y.は、まだ三万隻分も残っているのだった。


---

**【現在のステータス】**

**収穫**: 農業用最高級ジョウロ(オリハルコン・チタン製。惑星破壊ミサイルを弾く強度)

**ジョウロの素材**: 元・最強無人艦隊の装甲(愛の残骸)

**ノエル**: 精神崩壊中(「ジョウロォォォ!」と絶叫しながら第6艦隊を準備中)

**次回**: ストーカー、直接会いに来る。物理的な意味で。

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