第4話 王族たち

 騒ぎが収まって王様が頭を下げた。


「飛竜籠に乗る前にお詫びを。このようなことになり不快になられたかと思いますが、どうか平にご容赦を」

「どう見ても俺に原因がありますから、不快になることはありませんよ。驚きはしましたが」

「ご慈悲感謝いたします」


 王様の中で俺の印象がさらにおかしなことになったみたいだ。

 俺自身、自分に何が起きているのかわかってないのにな。困った困った。笑うしかないわ。


「ふふ」

「どういたしました?」

「いえ、ちょっと思い出し笑いしただけですので、気にしないでください」


 しまった心の中でやけになって笑った声が漏れ出てしまった。

 怪訝そうな王様と一緒に飛竜籠に入る。中には誰もいない。


「サガキ様、椅子にどうぞ。私は竜の調子を聞いてきます」


 王様が外に出ていく。

 俺は椅子に座り、視線を外に向ける。ガラス窓を通して周囲の人たちが車体と竜を繋いでいる様子が見えた。

 王様と御者と護衛らしき兵が話している様子も見える。

 話は長くかからず王様と護衛が戻ってくる。


「お待たせしました。すぐに出発します」


 王様たちも椅子に座る。

 竜が動き、空へと飛び上がる。竜の胴体に繋がれている車体も浮かび上がった。


「いつもより丁寧だな」

「そうなのですか」


 思わずといった感じで呟いた王様に聞く。


「はい。いつもはもっと激しい揺れがあるのですが。服従させられたことで丁寧に運ぶことを心掛けているということでしょう」


 いつもこうならもっと楽なのですがと苦笑していた。

 そのまま空の旅を三時間弱。かなりの速度で飛んでいた。

 移動中にこの国の常識を教わっていると、王様があちらをと指差した方角に小さくお城が見えた。


「あれが我が国の王城です。一時は魔王種ミノタウロスに破壊されることも覚悟しましたが、ああして無事なところを見るとほっとしますな。城下も遠目に見ても異常はない様子」


 お城は白亜の城といった外見で、小高いところに建てられている。五階建てくらいだ。広めの庭があり、そこに着陸すると王様が言う。

 城下町は城の南に広がっている。


「ああいう城を見るたび思いますが、大きいですよね。どうしてあそこまで大きいのですか」

「いろいろと役割があるからと言うことしかできませんな。行政の中心地、来客が多いため部屋を用意している、飢饉に備えて食料の保存、ほかにも保管するものがある。こういった理由があるのですよ」

「維持も大変そうですね」

「民からの税で成り立っております。ありがたいことですよ。だからこそ今回の危機はわしら王族も逃げずに戦場に立たねば申し訳なかった。たとえ負けるとしても戦ってくれる者たちを鼓舞する必要があった。君たちは一人ではない、無力ではあるがわしも共に戦場に立っていると。君たちの戦いを見届けて、わしも共に旅立とうと覚悟しておったのですが、サガキ様のおかげでこうして無事でいられます」


 途中までは為政者としての顔だったんだけど、最後らへんはまたこちらを配慮するような態度に戻ったわ。

 飛竜籠はすぐに着陸せずに帰還を示すように王都上空を三周する。

 どうしてすぐに下りないのかと聞くと、この車体には王家の人間が乗っていると示す旗が設置されていて、それを王都の人間に見せることで、戦いが無事に終わったと示すのだと言っていた。

 そうして庭に着陸する。

 庭には王様の帰還を知った使用人や兵が集まっている。


「さあ行きましょう」

「まずはヴァームさんが顔を見せた方がいいのでは?」


 皆が待っているのは王様だろう。


「問題ありませぬ」


 そう言うならと王様と一緒に飛竜籠を出る。

 わっと歓声が上がって、すぐに戸惑いの表情へと変わっていく。視線は俺へと向いているからやっぱり俺はあとからの方がよかったんじゃないかな。

 そんな空気の中、王様が口を開く。


「皆のもの出迎え感謝する。こうして無事帰ってくることができて皆の顔を見ることができて嬉しく思う。すでに予想しているかもしれないが、魔王種ミノタウロスは倒れた。こちらのサガキシンタロウ様が倒してくださった! 我が国の恩人にして、英雄である。褒めよ、称えよ、感謝せよ!」


 良く通る声で広い庭に王様の声が響いた。

 内容が浸透するにつれて、歓喜と戸惑いと恐怖がごちゃまぜになった空気で満たされる。


「さあ城に入りましょう。家族を紹介させていただきます」

「この空気を放置していいんですか」

「まあなんとかなるでしょう。おそらく」


 おそらく言うてはる。

 さあさあと背を押されて進む。

 兵や使用人は道を開けてくれて、城内に入ることができた。王様が背を押しているんだから止めようがないよね。

 多くの人が庭に出ていたようで城内は静かだ。


「こちらです」


 王様を道案内に使っている状態だけど、いいのかな。でも本人が嬉々としてやってんだよな。そもそも家族を紹介してどうするんだろう。


「向かう先は王族のプライベートスペースですか」

「ええ、そうなります」

「部外者が入っちゃ駄目なところではないでしょうか」

「普通はそうですが、トップが認めたので大丈夫ですよ」


 王様の許可が出たらそりゃ大丈夫だろうさ。

 プライベートエリアの入口を守る衛兵に止められることなく、足を踏み入れる。

 リビングルームのような部屋には、妙齢の女性が二人、二十代前半くらいの大柄な男が一人、十代半ばくらいの少女が一人いる。メイドさんもいるけど、再会を邪魔する気はないようで壁近くまで下がっている。

 ご家族全員顔がいいわ。目の保養になる。


「「父上!」」「「あなた!」」


 ご家族が俺の隣にいる王様へと駆け寄ってくる。

 邪魔になるだろうし、俺は王様から距離をとる。


「皆、ただいま。生きて帰ることができた」

「おかえりなさい。よくご無事で」

「本当に無事な姿を見ることができてとても嬉しいですわ」


 二人の奥さんが抱き着いた。

 それを王様は抱き返し、幸せそうな笑みを浮かべる。

 三十秒ほどそのままだったけど、奥さんたちは離れて子供たちに譲る。

 娘さんが王様に抱き着いて、息子は持っていた錫杖を差し出す。


「お預かりしていたこれをお返しします。俺にはまだ早い。今後もご指導よろしくお願いいたします」

「うむ。返してもらった。だが早いということはなかろう。城内と城下は混乱しておらぬ。無事治めきったということだ」

「皆の助力があったからです」

「わしも皆に助けられておるよ。その部分がわかっているなら十分やっていけるということだろう」


 あの錫杖は王権の譲渡を示すものだったりするのかな。魔王種ミノタウロスと相対するにあたって、死んでもいいように渡していたんだろう。

 あれ? その場合は王冠も渡すのでは? 王冠は身分証明の道具でしかないのかな。もしくは鼓舞するのに必要だったから完全には王権を譲渡せずにいたとかかな。

 そんなことを考えていたら、家族の再開は終わったみたいだ。


「父上、そちらの青年は?」

「うむ、紹介せねばならないな。彼こそがこの国の恩人、救世主、敬うべき存在!」


 家族相手でもそのテンションで行くのか。


「魔王種ミノタウロスを討伐し、多くの騎士と兵の命を救った存在。サガキシンタロウ様だ!」


 場の空気が固まる。

 わかる、わかるよ。王様のテンションと内容のおかしさに脳が理解を拒んだのでしょ。でも結果的には本当なんだ。

 その中で動いたのは娘さん。


「あの父上」

「なんだいソラ」

「今の話は本当なのですか? こうして父上が帰還されたということはあれが死んだというのは本当なのでしょう。しかしサガキシンタロウ様が倒したのというのは」

「本当だとも! 多くの騎士と兵が目撃者だ。わし自身も倒れ動かなくなった魔王種ミノタウロスをこの目で見ている」


 じっと王様を見ていたソラさんは、俺へと視線を移し近づいてくる。

 息子さんが止めようとして、それを王様が止めた。

 綺麗な青い目で俺をまっすぐ見る。目が輝いているように見えるのは勘違いなのだろうか。

 さっきも思ったけど、顔が良い娘さんだ。月下に咲く花のような静かな印象を受ける。


「初めまして。私はソラリム・ホルシテア。この国の第二王女です。このたびは我が国の滅びを討伐していただき心の底から感謝いたします」


 ゆっくりと頭を下げた。雪を思わせる真っ白な長髪が動きに合わせてさらりと動く。所作が美しいね。


「疑わしいと思うのですが、信じるのですね?」

「はい。わが父は戦場に死ぬ気で向かいました。危機に陥ったからといって命惜しさに逃げ帰る方ではありません。その父がこうして帰って来たということは、語ったことに偽りがないと言うことなのです。それでももし逃げ帰っていたとしたら、私がこの拳で活を入れていたところでした」


 握った拳を俺に見せてくる。

 あっれー、意外と血の気が多い? 月下に咲く花っていう印象が吹っ飛んだぞ。


「父親を信じ敬意を抱いているのですね」

「自慢の父ですから」


 ニコリと笑ったソラリムにつられて、俺も笑みを返す。

 でもトップが戦場に出ることは止めずに誇りに思うのは、すごい荒っぽい思考な気がする。父親似なのかな。


「ヴァームさんが紹介してくれたけど、俺自身も自己紹介をしよう。それが君に対する礼儀だろう。地球は日本の出身、相木信太郎。あなたに合わせるなら、シンタロウ・サガキ。サガキかシンタロウ、どちらかで呼んでもらえると助かります」

「ではシンタロウ様と。父上のことは名前で呼ぶのですね」

「本人からは呼び捨てでと言われたんですが、さすがに目上の存在を呼び捨てはできないので、ああ呼ぶようにしました」


 娘さんからすれば嫌かな。

 そう思ったけど、納得したようにソラリムは頷く。


「妻と息子も紹介しましょう」


 王様がそう言って大柄な息子さんの肩をぽんと叩く。


「ホルシテア王国第一王位継承権を持つ、第一王子ガイロンです。よろしくお願いします」


 金髪赤目の知的な人だ。でもソラリムの印象が変わったからこの人も外見と中身は違うのかも。


「王妃アロア。初めまして」

「王妃キノン。初めまして」

 

 アロアさんは金髪で、キノンさんは白っぽい灰色の髪。キノンさんは獣耳が髪の中からぴょこんと出ていた。

 髪の色から判断するに、ガイロンさんはアロアさんの子で、ソラリムはキノンさんの子供だと思う。

 よろしくお願いしますとこちらも返す。

 三人とも表立って疑う様子はない。戸惑った感じはあるけど。王様の態度があれだし戸惑うわな。


「第一王女と第二王子もいますが、ともに国外にいるのですよ」

「お姉様は南の国に嫁いで、お兄様は外交官として出ているのです」


 王様の説明にソラリムが補足した。

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