第89話 デザフィオたちの鍛練
デザフィオたちは時間をかけて、あれこれと話し出す。
良い機会なので互いの嫌なところ止めてほしいところも話すことにしたようで、少しだけ空気が悪くなったけど仲違いまではいかなかった。
「長い付き合いだから互いのことはいろいろわかっていると思ったんだけどな」
デザフィオが小声で言ってくる。
「長い付き合いだからこそ、言えないこと溜まるものもあるんだろうさ。これからもあの子らと組むんだろ。ちゃんとなにを考えているのか伝えるようにな」
「そうするよ」
しっかりと頷いて、おかわりを店員に注文していた。
よし。今後も組むなら俺に関わってくる時間が確実に減る。たまに会うくらいならいいけど、ずっとは困るからなー。
話し合いが終わり、解散というところでデザフィオがまた鍛錬をせがんできた。
どんなことをするのかゲンティアナとリセッタも興味があるそうで同行を求める。
今日くらいはいいかと許可を出す。三人と一緒に町から出て、人のいない平原に移動した。
「デザフィオはどういった鍛錬をしたいんだ」
「最近は思いっきり飛ぶことがなかったから、障害物を避けるやつ」
「あいよ」
大きな球や柱といった様々な形の氷を空に浮かばせて、それをゆっくりと移動させたり回転させる。
一度見たデザフィオは驚くこともなく、すぐに飛んで行く。
ゲンティアナたちは呆けた表情で浮かぶ氷を見ながら話しかけてくる。
「魔法使いだったの」
「魔法も使える。魔法専門ではないよ」
「あっちに集中していなくていいんですか」
ゲンティアナを見て答えた俺を見て、リセッタが空を指差す。
「あの程度なら集中しなくても大丈夫」
「まだ余裕があるのなら私もなにかやってみたいのだけど」
「討伐っぽいものでいいなら相手できるぞ」
水の兵を生み出す。
「これは兵士なら簡単に対処できる水の人形だ」
「へー」
やる気を出したゲンティアナが槍を構える。
「リセッタも挑戦してみるかい。攻撃を受けても濡れるだけで怪我はしないから戦闘訓練になると思う」
「やってみます」
もう一つ水の兵を生み出す。それに対してリセッタはナイフを一本抜いて構える。
「二刀流と思ったけど違ったのか」
「片方は採取とかに使うんです」
「そういうことか」
答えたあと二人から距離を取って、それぞれの様子を眺める。
デザフィオは以前のように障害物の間をすり抜けて飛び続けている。今は自己契約魔法は使っていないみたいだ。
ゲンティアナは水の兵の攻撃を軽やかにかわして、攻撃を当てていく。でも当てるだけだ。体積を削るということには気づいていない。ジョーテンさんはすぐに対処法に気付いたんだよな。経験の差なんだろう。
リセッタの動きは危なっかしい。必要以上に大きく避けていて、余分な動きが見て取れる。腰が引けているんだろうけど、一度も攻撃を受けていないのは目がいいのかもしれない。
デザフィオは特に助言は必要ないだろう。
ゲンティアナは自分で気付くまで放置でいこう。
リセッタは攻撃を促す方向でいこうかな。
リセッタの相手をしている水の兵を止める。
「リセッタ、追加で課題を出すから聞いてくれ」
「課題ですか?」
「うん。動きを見て、回避の方は十分だと思った。怖がっているせいか無駄な動きもあるけどね。それは戦闘というものに慣れていけばなんとかなるはず。だから攻撃の方を鍛えてみよう」
「具体的にはどうすればいいのでしょうか」
「人形の中に氷の塊を入れるから、それに攻撃を当ててくれ」
こくんと頷いたリセッタは人形の胴に氷が生まれたのを見て、またナイフを構える。
この様子だと気付いてないな。攻撃を当ててくれとは言ったけど、ナイフでとは言っていない。だから地面に落ちている石を投げてもいい。
ゲンティアナもそうだけど、対処法がいくつもあるってことに気付けるかなー。
三十分ほど経過して、一度休憩に入る。
「何度斬っても突いても倒せないけど、なにか条件があるの?」
「特定の条件はない。でも倒す方法はちゃんとある、ちなみにあれと戦った熟練の兵はすぐに気付いた」
「魔法?」
「魔法も対処の一つではあるだろうけど、その兵は魔法や特別な道具は使ってない。今のゲンティアナでもやれる方法で倒した」
どんな方法なのかと悩む様子を見せる。
「俺はなんとなくわかったんだけど」
デザフィオが言ってきたから、小声で教えてもらう。
正解を当てたので「それで合っている」と答えると、ゲンティアナは悔しそうにしてさらに考える。
「ちなみにリセッタも気付いていないことがある」
「私もですか?」
考え込む様子を見せたリセッタはわからないと首を振った。
「教えてください」
「難しいことじゃないからもう少し考えてみよか。俺が課題にしたことを口に出してみてくれるか」
「氷に攻撃を当てる、ですよね」
「そうだな」
「あ」
またデザフィオが気付いたらしく、小声で伝えてくる。
それも正解だった。弓を武器にしているから気付きやすいよな。
その様子を見てリセッタは思いついたことを口に出す。
「もしかして弓を使えと?」
「おしい」
「……あ、弓に限定せず遠くから攻撃するものでもいい?」
「その通り。ナイフを投げてもいいし、石を投げてもいい。取れる手段は一つじゃないよ。俺が課題を出したときナイフを手にしていたから、自然と取れる手段が一つだと思い込んだんだろう。考えてみたらほかに手段があったりするから、覚えておくといい」
リセッタは頷いた。
「まあそれはそれとして、接近戦で当ててみようか。攻撃をかいくぐって当てるというのも経験しておいた方がいい」
「わかりました」
休憩を終えて、三人はまたそれぞれの鍛練を再開する。
デザフィオは自己契約魔法も使い出して、速さと飛行制御を鍛えている。
ゲンティアナは土を投げつけたりといろいろと試行錯誤を始めた。水人形に土を投げつけても意味はないけど、いつかこの経験を生かして目潰しとして使うかもしれない。
リセッタは接近戦を挑んで、回避失敗しながらナイフを振っている。一度攻撃を受けたことでダメージはないと理解できたみたいで動きに大胆さが混ざり始めた。
また三十分ほど経過して、ここらで鍛錬を終えることにした。
「結局わからなかったんだけど!」
「難しく考えすぎたんだろ。答えは簡単だぞ。鍋の中にある水を減らすにはどうすればいい」
「そりゃ鍋を傾けるか、おたまで水をすくう……あの人形から水を分離させたらよかった?」
「その通り。だから槍に拘らず、殴りや蹴りで水を飛び散らせたらどんどん人形は小さくなっていって、ある程度まで小さくなったら砕けていた」
「武器を使うことが不正解とか!」
「不正解ってわけでもないけどな。エレメンツアーツで吹っ飛ばすなんてこともできるだろうし。いろいろと手段があるってこと。一人で考えたらドツボにはまることがあるから、誰かに相談するってのは大事だぞ」
バデム伯爵の件とか、俺もよく誰かにぶん投げているからな。
「そろそろ昼食の時間だし、町に帰るぞ。三人は間食をとったけど、俺は食べてないから腹減った」
「俺もたくさん動いたし腹はほどほどに減っているよ」
「私も」
「私もです」
一緒に食べるかということで、せせらぎ暴風亭に向かう。
セニーに出迎えられて、テーブル席に座る。
そこで今回の遠出について聞かれる。
「師匠はどこでなにをしてきたんだ」
師匠じゃないと前置きする。
「詳細は話せないけど、北の山に行ってきた」
「あんなところに? 危ない場所と聞いているよ」
「強い魔物がうようよいるらしいからなー。俺もキングエイプを見た」
「キングエイプ?」
首を傾げたリセッタに説明する。
山を支配するボスに遭遇したのかと驚いたリセッタに、群れからでた若い個体だろうと勘違いを訂正する。
「戦ったの?」
好奇心に目を輝かせたゲンティアナが聞いてくる。
「戦ってはない。遠くにいたからな。ただこっちに気付いて大きな岩を投げつけてきたよ。かなりの威力を伴っていた。若い個体であれなんだから、群れの長とか本当に強いんだろう」
「いつか私も行けるのかしら」
「行けるかもなー」
山にはトンネルができるし、人が集まる。その人たち目当ての宿とかもできるだろう。
そうなれば今よりも山には行きやすくなると思う。山に足を踏み入れるのは危険だけど、麓までなら遠からず行けるのだろう。
「どんなところなのかしら」
「現状危ないところという情報しかないから、あまり行く気にはなれないけど」
「私も怖くて近寄りたくない」
「今の三人だと死にに行くようなものだからな。強くなってランクアップして、お金も貯めてよりよい武具を準備できるまでは無理だ」
だろうなとデザフィオとリセッタは頷く。
ゲンティアナはどれくらいランクアップすればいいのかといった質問を投げかけてきて、答えられるものは答えていく。
ゲンティアナの冒険心が刺激されているようだから、また暴走しないか少し心配だわ。
まだ無理だから行こうとするなよと改めて釘を刺したら、わかっていると頷いていた。
念を入れて、デザフィオとリセッタにも止めるように言っておく。
「そんなに信用ないかしら」
「これまでの話を聞いたら念を押すくらいでちょうどいいと思って当然だろうに」
うんうんとデザフィオとリセッタも頷いて、ゲンティアナは頬を膨らませた。
そういった仕草を見るとまだまだ子供なんだなと思える。
「好奇心や興味のまま行動したい気持ちはわからんでもないけど、北の山なんていざってときに助けてくれる人はいないだろうから準備なしでの行動はやめておいた方がいいぞ。まだまだ若いんだ。もっと成長してからでも遅くない」
「子供扱いされてる」
「三人ともまだ子供だからなー」
「師匠は大人なのか?」
「自分を養えるだけの金はある。その部分だけで見れば大人なんだろうけど、完璧な大人かと言われたら首を傾げるな」
社会を意識した判断ができて、責任を果たせる。それが大人という意識があって、それらをこなせるかと言われるとあまり自信がない。
この考えは日本で培ったものだけど、この世界でも大きく外れたものではないと思うんだ。
「今はわからなくてもそのうちわかることなんだろう。俺自身そこまで人生経験を積んでいるわけでもないから」
「よくわかんない」
「だろうな。今はまだ未熟ってことを覚えておけばいいさ」
セニーが出来上がった料理を運んでくる。
「難しい話をしていたわね」
「セニーにも聞いてみるか。大人の条件はなんだと思う」
「いくつか条件はあるんだろうけど、経済的に自立できることと自分のやったことの責任を取れることかしらね。ほかには疑うことを覚えたら大人と聞いたこともあるわね」
「ああ、それは俺も聞いたことある。自然と話している人の言葉を疑うこともある」
セニーはあるあると頷く。
「そんなときふと思うのよね。子供の頃は素直に信じていたのにって」
「その情報が正しいのか疑うのは必要なことなんだけどな」
「そうよね。騙されることや間違った情報を渡されることがあるし、きちんと確かめないといけない。ありのまま受け入れるのが子供で、こういう思考になったら成熟したってことなのよね」
なるほどなとデザフィオたちが頷いていた。
疑うことなく受け入れている姿を見て、やはりまだ子供だなと微笑ましさを感じた。セニーも同じようで微笑みを浮かべていた。
そんな俺たちを三人は不思議そうに見ていた。
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