第8話 食堂と最年長
リクの眠気は、日を追うごとに強くなっていた。
朝、椅子に座ったまま寝ていることもあれば、歩いている途中で意識が落ちそうになることもある。
調理中に眠るのは危ない。
そう判断した二人は、食事をとるために食堂へ向かった。
居住区の廊下。
小さくうずくまっている影があった。
「……?」
リクが足を止める。
近づくと、図書館でやけに目を引いた金髪の少年だった。
整いすぎた顔立ち。青い瞳。
少年は力なく呟いた。
「……おなか、すいた」
かすれた声。
リクはフウマと視線を交わし、少年を食堂へ連れて行った。
オムライスを渡すと、少年は嬉しそうにスプーンを動かし始めた。
美味しそうに食べる。
静かだが、確かに空腹が満たされていく様子だった。
「……部屋の食料が無くなってて危なかった。ありがとう」
ぽつりと少年が言った。
青い瞳が、少しだけ柔らかく細められる。
その色は、静かな湖のようだった。
その時、白衣を着た眼鏡の男が通りかかった。
「ノア様」
金髪の少年に声をかける。
「珍しいですね」
少年――ノアと呼ばれた存在は、露骨に眉をひそめた。
「余計なことは言うなよ」
短く言う。
ノアの肩に手を置いたまま、男は淡々と続けた。
「リク様、フウマ様。この方は当施設で最年長の被験者です。何かあれば相談するのが良いかと」
「だから余計なことを言うなと言っている」
ノアの声が少し低くなった。
男は退散するように、その場を離れた。
空気が静かになる。
リクは少し考えてから、口を開いた。
「最近、眠気が酷くて……どこでも眠ってしまうんだ」
フウマも頷く。
ノアは「あー」と小さく声を漏らした。
「僕の時は、うさぎだったな」
一瞬、時間が止まった。
「うさぎ!?」
二人の声が重なる。
ノアは肩をすくめる。
「すぐ分かるよ。君たち、仲も良さそうだし、問題ないよ」
それだけ言うと、オムライスを食べ終えたノアは立ち上がった。
「ご馳走様」
軽く手を振り、去っていく。
フウマは苦笑した。
「……よく分からないけど、すごいフラグだったな」
リクは、眠そうに瞬きを一つした。
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