前世ですでに幸せな人生を終えた老人が、異世界で少年アルベルトとして二度目の人生を始める――この主人公がとても魅力的です。
アルベルトは、いわゆる「転生したら最強だった」というタイプとは少し違います。前世で長い人生を生きた経験があるからこそ、感情だけで突っ走らず、相手の立場や状況を考えたうえで行動する。穏やかで人当たりがよく、それでいて自分が正しいと思ったことには簡単に妥協しない。そのバランスが実にいい。
特に印象的なのが、亜人が奴隷として扱われる世界に対するアルベルトの姿勢です。
「それはおかしい」と感じるだけなら簡単。でもアルベルトは、怒りに任せて世界を否定するのではなく、剣や魔法、錬金術、知識、人とのつながりなど、自分にできることを一つずつ積み重ねていく。
しかも彼が目指しているのは、自分だけが成功することではありません。
前世ですでに幸せを知っているからこそ、今度の人生では、自分の周りにいる人たちにも幸せになってほしい。だからアルベルトの行動は、物語が進むほど「自分のため」から「誰かのため」へと広がっていきます。
それでいて、ただ優しいだけの主人公ではないところも魅力的です。相手を尊重しながらも、守るべきもののためには毅然と立ち向かう。知恵と経験を武器に、武力が重視される世界で別の価値を示していく姿には、少年主人公とは思えない人生の厚みがあります。
アルベルトが強くなっていくこと以上に、彼の周囲にいる人々がアルベルトと出会ったことでどう変わっていくのかが面白い。
「二度目の人生を、今度はどう生きるのか」。
その答えを探しながら、少しずつ自分の理想を現実に変えていくアルベルトという主人公を追いかけたくなる、長編異世界ファンタジーです。
転生、内政チート、武力チート。それらはこういったファンタジー小説モノでは王道です。しかしこの作品は、その中でも亜人差別に重きをおき、それに関わるキャラクター達の魅力で読ませます。
主人公は、善性と公平性をもち、力はあるが目立つのは嫌い。苛烈な攻撃性も持ち合わせ、敵対者には容赦はしません。しかし元々大往生からの転生なので、人の話に聞く耳を持ち、道理を分かっている人間です。つまり、とても共感できる主人公であり、そこに人が集まります。
またキャラ達が魅力的です。勿論敵もおりますが、適度な距離感から関係性が深まっていく様子を丁寧に描いています。オススメです!