第5話 開戦前


「いやったぁ!」


 参院会館の議員事務所の一室で、民人党参院議員の小石川の高笑いが聞こえる。


 秘書の田上は涙を流していた。


 とうとう、あのクソ女を処刑した!


 小石川先生をノイローゼにしたあのクソ女を!


 春先の国会答弁で高田佐紀の金の流れの不自然さを追及するという正義の鉄槌を下そうとした中で、憲法審議会に赴く議員はサル以下と小石川先生が当たり前の一言を言っただけで、偏向メディアは手のひらを返して、叩き始めた。


 これは確実に高田が仕掛けた、罠だ。


 だったら、当然の報いを受けさせるのだ。


 しかし、暗殺を手がけた、ヤクザどもは良い仕事をしてくれた。


 問題は報酬の支払いだが。


「先生・・・・・・大変、申し上げにくいのですが」


「何だよ! せっかく、いいところなのに!」


「連中への支払いはどうします? さすがに一千万円は払えないでしょう?」


 そう言うと、小石川はニタリと笑い出した。


「あの人たちに彼らを処分してもらおう。そうすれば、払わなくていいだろう?」


 田上はさすがにそれはヤクザからの報復を買うと思ったので、食い下がることにした。


「いや、しかし、連中にはかなりの証拠が渡っておりますし、あの人たちに処分をお願いすると言いましても、黒陽会は武闘派揃いですし?」


「ヤクザなんかさぁ、ゴミなんだから。正義の戦士たちに成敗してもらおうよ? 大義があれば、目的は浄化されるんだから」


 明朝新聞の記者がネット上で言った一言を引用した、小石川だが、田上はさすがにこれは大ごとになりそうな予感を感じていた。


「分かりました・・・・・・あの人たちには連絡をしておきます」


「頼んだよ! 今日は焼き肉だな!」


 とりあえず、裏手に回って、どうにか思案しようとしたが、妙案が浮かばない。


 あの人たち、いわゆるの正義の戦士たちである、中核派の同志たちに話を通せば、間違いなく、ヤクザとの全面戦争が始まってしまう。


 田上は頭を抱えた。


 スマートフォンにある中核派の事務局の電話番号を見ているだけの数分間を過ごす中で、小石川がどんちゃん騒ぎをしているのを見ると、何故か、先ほどの高揚感は薄れ、空しさが込み上げてきていた。


 続く。



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