第11話 異界の穴

「なんで消えなかったのかな」

 一度回収したドローンを見下ろして、楽々浦ささうら池水ちすいさんが腕を組んで首を傾げていた。二人のポーズがまったく同じで笑ってしまう。


「高さが微妙に違っていたんですかね」

 楽々浦はまだ諦めきれないみたいだ。


「いやあ、カラスの飛んでいた高度と、それほど外れてはいないはずだよ。高度じゃないだろうな」

 池水さんはドローンを持ち上げて各部をジロジロ見ている。


 

「そのドローン、身体が白いからじゃないですか?」

 僕は冗談のつもりで言ったのに、二人はハッとした顔でこっちに目を向けてきた。


「それだよ。カラスは真っ黒だけど、この機体は白い。そうだ、黒い機体カバーもあったから替えてみよう」

 池水さんはテキパキと作業を進める。ケースから取り出したカバーに付け替えると、カラスみたいに真っ黒いドローンに変貌した。


 ナイスだよ由紀、と七巳も喜んでくれたけど、僕はそれで何が変わるとも思えなかった。ファーストキスで舌を入れるか入れないか、それが僕の今の問題なのだ。


「今度は低い高度で、島の様子も見ながら飛ばしてみよう。木の近くからそのまま上昇していけばポイントを外すこともないはずだしな」

 池水さんが再び操作して、ドローンは地面を離れていった。

 僕は今度はドローンを目で追うことはせず、操作器のモニターを見ていた。


 横長のモニターは左右で画面が違っていて、下向きのカメラと前向きのカメラの画像が同時に見える。前方モニターがどんどん島に近づいているところを映し出す。


 島に差し掛かった。僕は今度は下向きの画面に見入った。

 水面からちょっとしか顔を出していない地面だけど、低い雑草が密生している。

 細い木の枝が落ちているのは、松の枝かな?


「このあたりだな上昇するぞ」

 池水さんが言うと、5メートル位の高さだった視点がじんわり高くなって行く。

 そして……。


「あ、消えた」

 モニターを見る僕の考えがまとまらないうちに、三人の声が響いた。

 僕はモニターに見入っていた。


「こっち見てください。変ですよ」

 僕が声をあげて、やっと三人はモニターを見てくれた。

 モニター画面の中の島には、雪が積もっていたのだ。


「機体は消えたのに、画面はまだ映ってるんだな」

 楽々浦がぼんやりと言った。


 池水さんを見ると、目を見張って言葉も出ない様子。

 彼は無言でドローン操作に集中している。

 湖の岸辺に向かって操縦しているようだった。

 画面もゆっくり回って、湖の岸辺を一周するように映していく。

 一周するうちに僕らのいる場所も映されるはずだ。

 

 でも、湖を一周しても、そこに僕らはいない。

 遊歩道は影も形もなかった。

 雪をかぶった山と、葉の落ちた冬木立が続いているだけだった。


「いったんドローン回収するぞ」

 自分を落ち着けるためか池水さんはそう言ってうなずいた。

「やっぱり、自動制御は無理か。また島の木のところから上昇してと」

 独り言を言いながら操縦する池水さん。


 そのそばで僕らはモニターに見入っていた。

 画面の中にはチラチラと白いノイズが入ってる、と思ったのは雪だった。

 画面が暗くなる。カメラのレンズが雪をかぶってるのだ。

 駄目かなと思ったが、なんとか島の上まできた。


 そこで画面の視点が高くなる、と画面が一瞬白飛びしてゆっくりもとに戻る。


「あ、帰ってきたよ」

 七巳の声。

 目を移すと、真っ黒いカラスみたいなドローンが島の上に見えた。 

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