第6話 目印の場所
三人で僕が拾った古地図を眺めている。
「湖の中の島に一本生えた松の真上に渦巻きか。なるほど、空中の一点を表すために、地図じゃなくて絵になってるわけだ。でもなにがあるんだろ、というかなにもないよな」
店員の
先程、七巳の方から紹介された、若い店員はやはりバイトで、高2ということだった。
僕と同学年。
だからここに居る三人はみな同い年というわけだ。
七巳だけが、怪我で入院していてダブりの高1で、僕らの一学年したになるけど。
「楽々浦にしても夜にしても、変わった名前だな」
僕が言うと、
「そうなのよ。この人、名前だけじゃなく変わってるから気をつけてね。この人の前で、お前に俺の気持ちがわかるのかよって言うのは禁句だから」
そう言う七巳に、どうしてと聞こうとしてやめた。
そういえばさっきやばいこと言われそうになったのだ。
ちらりと楽々浦に目をやると、彼はふっと目を逸らした。
「とりあえず、二人で湖に見に行ってくれば? 俺は仕事だから抜けられないけど」
なかなかいい提案だ。さっきのエラーを取り戻そうというのかな。
僕が、ううんそうだなあと煮えきらない返事をすると、七巳が僕の肩をとんと叩いて言ってくれた。
「東京から朝イチできたんでしょ。お腹へったでしょ、途中なにか食べていこうよ」
腕時計の針は午前11時になろうかというところだった。
「自転車あるから、それに乗っていけよ」
そう言う楽々浦に案内されて裏手に回ると、数台の自転車が停まっていた。
「最近観光客がよく来るから、レンタル自転車始めようって話になってさ」
開業前だから
「もう少しサドル上げたほうがいいよ」
僕の後ろから七巳がサドルのレバーを動かして、両足で立った僕の後ろでサドルの位置がぐんと高くなる。
ほら、お尻乗せてごらん、と言われて腰をずらす。
爪先立ちになってやっと座れた。
「でも、これじゃあ、座ったら脚つかないぞ」
「いいんだよ。これくらいが一番効率よく漕げるんだから」
見ると彼女の自転車のサドルも同じ位の高さだ。
離れ際に七巳が僕のお尻をするりと撫でた。その途端、変な快感がキュキュキュンときた。
あ、あん。と声がもれてしまった。
駄目だ駄目だ。僕は男なんだからこんな声もらしちゃ。いや、身体は女だけど、心は男なのだから!
なんだかデートみたいだな。さっき果たし状を渡したばかりなのに、ウキウキしてくる。彼女が先に立って漕ぎ出した。僕も慌ててその後を追う。
さっきの雨が嘘のように晴れ渡った冬の空。それを見上げながらペダルを漕ぐのは気持ちよかった。
自転車で走っていると、近くに居ても話はできない。風音もあるし、息も切れる。
でも、なにを話していいかわからない今はそのほうが好都合だった。
それでも一つ伝えておいたほうがいいことがあったのだ。
「あ、あの。ちょっといい?」
大声で言うと、彼女は足を止めて振り向く。
冬の太陽の下、彼女の髪の毛がキラキラしてた。
「僕、時間あんまりないんだよね。この町を五時の急行で出ないといけないから」
つまり、どこかの食堂に寄ってる時間が惜しいってこと、彼女はすぐにわかってくれた。
「いいよ。じゃあ、コンビニでおにぎり買っていこう」
彼女はそう答えて、再び走り出す。
彼女のきらめく黒髪を追う僕は、まるで青春漫画の主人公になった気分だった
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