和風ファンタジー/ホラーとは何か?
答えは人それぞれであろうが、欧米のキリスト教的な世界観とは対照的な、人も神も怪異も曖昧な和風の世界観をファンタジー/ホラーという手法で描く。あるいは、欧米の個人主義・平等主義とは対照的な、家中心主義・男尊女卑がもたらすねっとりとした和風の人間関係を、ファンタジー/ホラーという手法で描く。それは確実に正解の一つであろう。
その模範例がここにある。
設定が和風なだけではない。北の荒海の潮風も、妖怪めいた船乗りも、赤の色霊(いろだま)に彩られた記憶も、表現の全てが文面から滴るような「和」に満ちている。それらは単なる装飾ではなく、物語に必要な要素である──即ち、彼岸と此岸を結ぶ共通項として。同じ表現で描かれているからこそ、両者は物語上で否応にも融合していく。
「ああ、単尺モノばかりがもてはやされる、この世の中。言霊は死んだか、言葉は単なる記号に成り下がったか?」そうお嘆きの方には、ぜひお薦めしたい作品である。ただ──。
強すぎる言霊は、読者の脳内にまで侵入してくることはお忘れなく。
広大で美しい一方、底知れぬ闇がひそんでおり、異界への入口――いいえ、異界そのものともいえる海。
本作に登場する海坊主をはじめ、古今東西海には船幽霊や七人ミサキ、シーサーペントやクラーケンなど、さまざまな妖怪や怪物が棲むといわれていますが、それも当然のことでしょう。絶滅したといわれている巨大ザメ、メガロドンだってひょっとしたら――。
主人公は、北の洲へと渡るため、海坊主の親玉のような妖怪「溟僧正」を撃つという舟に乗りこみます。
そこで彼が遭遇する地獄絵図とは、秘めたる過去とは――。
海の恐怖と怪異を、潮の臭いが漂ってきそうなほど、舟の揺れが感じられそうなほど生々しく描きながらも、作者様らしい妖しい美しさにも彩られている暗黒幻想譚。
衝撃的ながら「これしかない!」と思わせてくれるラストも見事です。
お気に召したら、同じく海をモチーフにした和風ファンタジー「螭が月を呑む話」もぜひどうぞ。