現代ファンタジーやホラーを主戦場とする魔山十銭さんの代表作です。こちらは、ヒューマンドラマというか、ジーンとくる人情噺となっています。
ストーリーは、主人公の正一が妻とすき焼きを囲む場面から始まります。いい肉だ、確かに美味しい、美味しいんだが、人生で一番ではない。。
そこから正一の荒んだ若者時代から社会人時代の回想シーンに入っていきますが、出てくるキャラクターがそれぞれ個性的で魅力的なんです。定食屋で安いすき焼きをおごってくれた木村さん、経済的事情で東大を中退したが故にネチネチした性格になってしまったアカモン。それぞれがなんとも味わいがあり、ままならない人生の機微といったものが伝わってきます。
定食屋の安い肉のすき焼き。とても美味しそうでした。
やはり、食べ物の美味しさは、誰と食べるか、何を考えながらどんなシチュエーションで食べるか、で、全然違ってくるものですよね。
心に残る小編でした。
わたくしはお勧めします。
名古屋に4年ほど、転勤してたことがある。
名古屋の外れ、柴田という場末の街に住んでいた。
その街の場末の居酒屋。
カウンターだけの小汚い店。
手羽先は、そこら辺のスーパーで買ってきたブロイラー。
ソレを塩焼きにしたものをツマミに瓶ビールを飲む。
その店にサーバーは無い。
瓶ビールしかないのだ。
そんな、最低な店。
けど、しっかりと覚えている。
このお作品。
最高。
登場する場末の定食屋。
ギトギトな店。
すき焼き。
肉は、安い、脂っぽい、固い肉。
テレビで流れるヒット曲。
『ねぇ、プロレスにチャンネル変えて』
そう頼むと、店の女将さんに、五月蝿いと怒鳴られる。
本当に最高!!
ノスタルジーと言うものは、
頭じゃない、
きっと、血が覚えているんだ。
ご存じ文明開化な雰囲気を感じる、日本を代表する料理「すき焼き」。
そんなすき焼きですが、ちょっと変わったところで、「上を向いて歩こう」の英題が「SUKIYAKI」だったりします。
何でも、その曲を海外でリリースする際「上を向いて歩こう」ではタイトルとして長すぎるということで改題することになったのですが、その際に携わった関連企業の社長さんの知っている日本語の単語が「SUKIYAKI」と「SAYONARA」だけだったそうで。
結果、「別れの言葉では暗くなりすぎる」という理由で消去法的に「SUKIYAKI」になった……という背景があったりします。
でも、それはそれでドラマというか、ノスタルジックで温かな風景が思い浮かんでよいものですね。
そんなすき焼きというのは、日常の中でも特別感あるハレの日に食べるような、ちょっと格式高い食べ物なわけです。
となれば、それを食べるシチュエーションも、おのずと特別な機会になりがちです。
ちょっとした儲けが出たとか、何か元気付けたいことがあったとかですね。
でも、こういうちょっとした贅沢品というのは、中々若くてお金のない時期には頻繁には食えません。
気前のいい先輩が気紛れに財布を緩ませたときなんかに、ご相伴に預かったりするわけですね。
うーん、いつか自分も他人に奢れるような気前の良さが持てる程度に大金を持ちたいものです。
だってそういう人って、きっと心が温かで、どこまでも優しい人だと思うんですよ。
その人の優しさ、そして奢った飯で、どれだけの人が心救われてきたのか、ってね。
学がなくて、ギャンブル癖があって、でもすごく気前が良くて親身になってくれる人。
そんな人を思い浮かべながら食べるすき焼きは、きっと特別な味がすると思います。
是非ともそんな恩人を思い浮かべながら、本作をお楽しみください。