読み始めたときは、AIによる遺言執行と相続を描く物語なのだと思っていました。
けれど読み進めるほど、その面談を受けているのは登場人物だけではなく、私たち読者自身なのだと気づかされます。
「尊厳とは何か。」
この問いに作品は最後まで答えを与えません。 言葉で説得することも、理屈で導くこともしません。
ただ、是清という存在がそこに「在り続ける」ことで、読者はいつの間にか自分自身へ問い返し始めます。
そして迎える最後のお点前。
言葉では届かなかったものが、静かな所作だけで空気を変えていく場面には、思わず息をのみました。
これは「尊厳」を説明する物語ではありません。
読後、自分の中に問いだけが静かに座り続ける。
そんな読書体験を与えてくれる作品でした。