幼なじみの場所
あれ?
会場として貸し切った席では周りに懐かしい顔が揃っていた。出席率は三十五人中、三十人。男女ともに見覚えのある顔が揃っていて、目の前にいるのは、崎野大成だ。
「久しぶり」
と奏には気軽に挨拶した後に、他にも挨拶して回っていた。
同窓会っていうか、ここで一回気軽な飲み関係を繋ぎたいって感じなんだよ、と崎野は言う。
奏は珍しく、司と離れた位置に座る飲み会に戸惑っていた。司は当時仲良くしていた友達たちと話をしている。
そっち側行こうかな~と席を移動しようとしたら、崎野が、
「奏、久々じゃん」
とダイレクトに声をかけてきて、移動のタイミングを失った。
「あ、大成。そういえば久々だよな。高校の頃はあんなに、司と一緒につるんでたのに」
奏がそう言った途端に、崎野の目の奥がギラッと光る。ん?と奏は僅かな違和感を覚えただけだったけれど、確実に崎野の顔つきが変わったのが分かった。
「司とまだつるんでんの?」
その一言で、奏の頭の中に疑問符がポカポカと浮かぶのだ。
「まだつるんでる?幼なじみだし、別につるむっていうか。普通に一緒にいる」
そこまで言ったあとに、付き合ってるしな、と心の中で付け足す。
「普通に一緒にいる?幼なじみって最強」
と冷やかすような口調になる崎野をみていて、あれ、こいつこういうやつだっけ?と奏は思うのだった。
そんな言い方するやつだったっけ?
「大成、元気そうじゃん。口調が煽り系だし」
そのままの感想を口にしたら、崎野は目を丸くして、それから破顔する。
「お前って、マジで変わらね~。思ったことそのまま言うじゃん」
「性格悪くね?幼なじみ最強って思うなら、大成も作れよ幼なじみ」
思ったまま口にすれば、さらに崎野は笑う。
「それでこそ、奏だな。作れねーから。最強なんだろ」
一度、会話を切って幹事として別の人のところに話しかけにいく。
手持ち無沙汰になった奏は近くにいた女子と会話をはじめ、女子がはじめたコスメの話から、奏の姉のコスメ部屋の話に行き、なんとなく盛りあがっていた。
あ、そうそう、別に、誰とってことなく盛りあげるのは簡単なんだよな。と奏は思う。
ただ、後に、話していた女の子とは高校時代に付き合っていたことを指摘されて、気まずい思いをするのだった。
その後、司に声をかけに行くタイミングはあったが、奏にしては珍しく、なんかやめた方が良さそう?と思う。
崎野のいう、幼なじみって最強という言葉が妙に頭に残っていたのだ。
最強なのを見せびらかす必要も、ないよな?
と妙に殊勝な気持ちになる。
宴もたけなわになってきた頃に、崎野が近くに戻ってきて、
「今度、直接連絡してもいい?」
と言ってくる。
奏からすると意味が分からなかった。今回の件に関してグループチャットをしているし、個人チャットを始めることはできるはずだし、そもそも前から連絡先は知っている。
アカウントをブロックした覚えもないのだ。
「今さら?」
と奏が言ったら、
「今だから、じゃん?」
崎野の視線には、何かを匂わせる気配があった。
何か、頭の中に引っかかる気もしたが、あまり過去のことに執着しない性分だ。
「ま、いいけど?」
奏がそう言った瞬間に、何か、皮膚の上にジリッと痛みを感じる。不意に顔をあげたら、少し離れた席の司と視線があった。
司、どうした?と言いかけて、手首に崎野の指が触れ、視線を戻される。崎野はぐっと顔を寄せてきて、耳元でささやく。
「あの時から、ちょっとは進んだ?」
「は?」
崎野の視線は奏を一度見て、それから司の方へ向く。けれど、司はもう、こちらを見ていなかった。
崎野はさっと奏から離れて、
「ま、機会があったら遊ぼってこと」
と話を打ち切る。
視線のリレーを目の当たりにして、奏はお前ら何してんの?と思う。ただなぜか、皮膚の上がジリジリと熱かった。
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