第22話 鉄屑の回廊(コリドール)その6
セクター4、「冷却塔内部」。
そこは、エコー・アイランドの有毒な吐息が最も濃く溜まる場所だった。
「……メイ。視界が最悪だ。ライトを点けても、霧に反射して自分の顔しか見えないぞ」
カイルは、スタッブ・ハウンドのメインモニターを睨みつける。
視界の端では、メイが載せ替えた廃車用の冷却ポンプが、まるで喘息患者のような異音を立てながら、不安定な熱排気ログを表示していた。
『贅沢言わないで。その濃霧のおかげで、敵のレーダーも死んでるわ。……いい、カイル。あんたの左腕はただの鉄板よ。盾にするのはいいけど、一度でも大きな衝撃を受けたら、その衝撃が直接機体のフレームを歪ませる。絶対に「受け流して」』
「……言うのは簡単だな」
カイルは、右腕のボルトガンの装填レバーを引いた。
メイが保持していた装弾認証チップを再びコンソールに差し込んだ瞬間、ラックから「最後から3番目」の弾丸が、重い金属音を立てて薬室へ送り込まれる。
その時、霧の向こうから、金属がコンクリートを削る不快な音が聞こえてきた。
音は一つではない。複数だ。
「……カイル、動かないで! 生体反応じゃない……熱源が分散してる。これは、レジスタンスがバラ撒いた『自走式の地雷カッター』よ!」
霧の中から、車輪を高速回転させ、巨大な回転ノコギリを備えた小型の無人機群が姿を現した。一つ一つは機体に致命傷を与えるほどではないが、スタッブ・ハウンドの脚部を狙い、機動力を奪うための「安価な罠」だ。
「……くそっ、こいつらに一発一千二百クレジットの弾は使えねえ……!」
カイルは、左腕の固定式鉄パイプシールドを低く構えた。
ボルトガンは、本命の「不法占拠者」のために温存しなければならない。
「メイ、燃料を食うがスラスターを瞬間噴射して飛び越える! ……左腕を地面に押し付けて、ソリのように使うぞ!」
『計算上は可能だけど、廃車用ポンプがその負荷に耐えられる保証はないわよ!』
「やるしかないだろ!」
カイルはペダルを踏み込んだ。
スタッブ・ハウンドの背部スラスターが泥水を蒸発させながら火を噴く。
機体は前のめりになり、左腕の鉄板を盾にしながら、地雷カッターの群れの中を強引に滑走(スライディング)した。
ガガガガガッ!!
鉄板とノコギリが激突し、凄まじい火花が霧をオレンジ色に染める。
左腕から伝わる衝撃がコックピットを激しく揺さぶり、カイルの視界が火花の色で白く塗りつぶされる。
「……あ、ああああああっ!!」
突き抜けた。
背後で自走地雷たちが空しく空を斬り、激突し合う。
だが、スタッブ・ハウンドのモニターには、無残な警告が表示されていた。
現在のリソース・ログ
• 所持金: 500 Cr
• 弾数: 3発(1発装填済み、予備2発。未発射)
• 燃料: 82%(緊急加速により大幅消費)
• 機体状態: 左腕シールド:激しく摩耗(あと一撃で脱落)、冷却ポンプ:過熱中
• 生活: 肺の汚染度 30%(衝撃でフィルターがズレ、外気を吸い込む)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます