第6話:大切な肉が口で溶けて、残された米達を盛大にかきこむだろう

「買い出し終わったぜー」


 ぶっきらぼうな声とともに背の高い男性が入ってきた。

 ちょっとツンツン気味な茶髪で青い瞳の男性だ。かなり美形だが、何よりも目を引かれたのはその耳と尻尾。


 ぶっきらぼうな彼はケモノ耳なのだ。

 折れ曲がらない系の犬耳とふわふわ尻尾。


「爺! なんか耳が可愛いのが来たよ!お散歩帰りかしら」

「ほほー。あのワイルドを可愛い呼ばわりとは。さすがヴァイオレットさん」

「 たしかに。あの耳は野生的よね。ワイルドだわ」

「いえいえ、彼の名前ですじゃ」

「なんと」


 名前がワイルドらしい。

 ワイルド調理担当。全部〇〇の丸焼き!で料理が出てくる気がする。


 そんなことを考えているとワイルドが私を見降ろしながら喋り始めた。

 背、高い!2mくらいはありそうだ。


「はっ、お嬢。婚約破棄されんだってな」

「そうなのー。びっくりして髪も白くなっちゃった」

「ふん。俺の料理を不味いなんて言いやがったからだろ。ざまぁみろ」

「あー! 口悪い!」


 あ、これが爺の言ってた不躾かぁ。理解。

 そしてしっかりざまぁみろって言われたのはじめて!


 ワイルドの言い草にシェダルが口をはさみにきた。

 

「おい、ワイルド! お嬢様になんて口をきいているんだ!お嬢様に謝れ」

「そうだそうだ!私はお嬢様だぞぅ!」

「うるせぇよメガネ。お嬢の行いが全部悪いんだろうが」

「それについては何も反論出来ないが……」

「そうだそうだ!……ん?」


 ヴァイオレットさんはどうやら調理担当さんも敵に回している模様です。


「ワイルドさん。ヴァイオレットさんがお腹を空かしているようですな」

「ちっ、了解、執事長。お嬢は黙って待ってろ」

「お腹空いたー! ハリーハリー!」

「黙ってろ!」

「ポッター!」


 10分ほどでワイルドがご飯をテーブルへ運んできた。

 びっくりするくらい良い匂いがする。

 そしてワイルドはびっくりするくらいイライラしている。


「時間がねぇからすぐ出来る物しか作ってねぇぞ」

「あらワイルド君、私が食べる前からいきなり言い訳かしら?」

「あ? 黙って食え」

「口悪ーい!」


 目の前には見た目も美しい肉料理(ステーキ?)と鮮やかな盛り付けのサラダ。

 なるほど。プロの料理人ですね。(素人並感)


 お腹も空いていたので、いきなりメインであるお肉にナイフを入れちゃうぞ えへへ。

 肉汁がじゅわわーってなって、ナイフで切った断面は焼き目と赤身のグラデーションがテラテラと輝いている。

 フォークで持ち上げているだけでなんだかとろけ出してしまいそうなお肉だ。

 で、でも、きっと見た目と匂いだけだわ!こんな口の悪い男に美味しい料理が作れるはずない!


「ふんっ……ゴクリ。口の悪い男に美味しい料理が……ゴクリ。できるはずないじゃない!……ゴクリ」


 ふるふると震えるお肉を躊躇無く一口で頬張る。

 すると先程までとろけ出しそうだったお肉は口の中で解けたあとに蕩けた。


「ふわぁぁ、おいひ……はっ!」


 しまった!蕩けた表情になってしまった。

 さっきまで散々ワイルド君に強気な態度をとっていたからざまぁされちゃう!

 本日2度目のざまぁタイム!いやぁ! と、構えていたのに。


「ふん、そうか。野菜も食えよ」


 ワイルドはざまぁのような態度をとらなかった。

 意外と大人なのか。いや、ヴァイオレットよりは確実に大人だろうけど。


 私はあまりに美味しさに結局おかわりまでしてしまうのだった。


 ◆◆◆


 ワイルドには明日も作って貰いたいので謝ることにする。

 そうよ、ご飯は悪くないの。

 悪いのは世界なの。私も悪くないの。


「あー、あのねワイルドさん。色々ごめんなさい。ごはん美味しかったです。また作って下さい」

「……え? あ、う、うるせぇよ。とっとと寝ろ」


 ありゃりゃ、怒ってるな。

 日をあらためて謝ることにしよう。


 そう思い、リビングを後にしてリゲルの案内で部屋に戻った。

 広めのお部屋だったけど、あんまり特筆する事のない意外と地味なお部屋でした。


 お風呂の準備をしてリビングの横を通るときにワイルドとシェダルの話し声が聞こえてきた。


「おい、ワイルド嬉しいのは分かるがさっきから尻尾を振りすぎだ。邪魔過ぎる」

「は、はぁ? う、嬉しくねぇし!」

「お嬢様に初めて褒めて貰えたものな。さぞ嬉しかろう」

「うるせぇ! 眼鏡カチ割るぞ!」


 よかった。明日の朝食は問題なさそうだ。

 そして、朝食はもっと褒めよう。むふふ。

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