第39話 王陛下脚本の終演に向けて

 一方その頃。

簒奪さんだつに成功しテオの手中に収められた仮王宮では、兵士が顔面蒼白でテオに頭を下げていた。テオはもぬけの殻になったイヴリンのいた部屋と、開け放たれた窓を見て溜息を吐く。


「も、申し訳御座いません。テオドール陛下!医師が診た時は意識が無かったので……!!」

「良い。あいつの無鉄砲さと底なしの根性を見誤った俺が悪い。ルノー」

「此処に。テオドール陛下」


 テオは再び深い溜息を吐きながら、がしがしと頭を掻く。テオに呼ばれると、ルノーは傅いた。未だに慣れない光景だが、テオは狼狽える事もなく開け放たれた窓を見たままルノーに告げる。


「馬を用意しろ。俺とお前。あともう一人くらいお前の隊から寄越せ」

「簒奪して間もない陛下が仮王宮を空けるのですか?」

「攻め入られても主がいなきゃ獲れる首もないだろ」


 念の為の確認をルノーがすると、テオはくだらない事を聞くなと言う目でルノーを一瞥する。急ごしらえにイヴリンの部屋の見張り役になった兵士は、はらはらと二人のやり取りを見つめていたが、二人は存外楽しそうだった。

 ルノーはふっと息を零した。


「それでは、陛下の仰せのままに」

「そうしてくれ」


 手短にルノーにそう告げ、テオは踵を返した。

憔悴しょうすいしきっていて、擦り傷や打ち身に捻挫など怪我の多い女の体だ。そう遠くへ行けるとは思えない。

 テオは自分の傷だらけの手の甲を見つめる。もうこの手が意図的に傷つく事はない。傷の数は、テオがイヴリンと出会ってから火刑劇を繰り広げた数だ。


(しぶといあいつの事だ。もしこのまま見逃してやれば、自分の村に帰れる)


 そんな事を考えたが、結局テオの足は城の外へそのまま向かっている。

脳裏にはシャルルの顔やマドレーヌの顔が浮かぶ。


『お前も恋慕や欲で国を傾ける呪われた血なんだよ』


シャルルの言葉を思い出しながら、テオは浅く呼吸を吐いてそれを追いやった。



「悪いな。もう決めた事だ」



 テオがぽつりと零した言葉は、誰に届くでもなかった。手の甲から視線を外し、彼は歩き出す。

 この陳腐な舞台の幕を閉じる為にイヴリンのもとへ急がなければならなかった。

 長かった再演続きのこの舞台も、いよいよ終わりを迎える。

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