高校野球。それは夢にときめき、明日にきらめく球児たちが三年間をかける青春の舞台。そんな舞台に場違いにも現れたのは、旧ソ連の情報機関『KGB』の拷問官だった記憶を持つ黒鉄零。
前世で国の駒として使い倒された彼が新たな人生で望むのは、今度は自分が支配する側に回ること。その手始めに彼は自身が所属する弱小野球部を支配し、甲子園優勝を目指すのであった……そういうのは別の分野でやってもらえませんかね?
元KGBということもあって、この零のやり口がとことん狡猾でとことんあくどい。まず自校の部員に言うことを聞かせるために弱みを握って脅迫するし、当然敵チームにも同様の手を使い、さらには審判にまで及ぶ。しかし、野球はただ脅迫ばかりしているだけで勝てるような甘いスポーツではない! なので零は父の会社が開発したサプリだと言って、怪しげな薬物を部員に投与していく……。
一事が万事この調子で、表向きは快進撃を続ける零率いる灰谷高校だが、その裏では高校野球の秩序が徹底的に破壊される。野球に対する愛情を一切持たない男による、勝利のためにあらゆるものを冒涜していく超異色の野球ドラマ。変わった野球ものが読みたい人は是非どうぞ。
(「球春到来! 野球小説特集!」4選/文=柿崎憲)