「もっと人に優しくしましょう」
「命を大切にしましょう」
誰もが一度は聞いたことのある、とても誠実な言葉です。
私も、そう思います。
優しい世界のほうがいい。
争いなんてないほうがいい。
誰かを傷つけずに生きられるなら、そのほうがいい。
――では、
その「優しさ」が、限界を失ったら?
この作品が突きつけてくるのは、そんな恐ろしい思考実験です。
いやいやいや――
優しさですよ?
慈しみですよ?
それがどうして、こんなに怖いんですか……!?
改めて、「優しさとは何だろう」と考えずにはいられません。
この作品は、日常の中にあるごく普通の価値観をひとつ取り出して、
「では、その優しさを極限まで大きくしてみましょう」
と、こちらへ差し出してくる。
そして気づいたときには、その問いから逃げられなくなっています。
善意。
思いやり。
命を大切にする心。
どれも否定したくないものだからこそ、怖い。
読み終えたあとに残るのは、
「善いことなら、多ければ多いほど本当に善いのか?」
という、簡単には答えの出ない問いです。
ほんの短い物語。
けれど、その短さの中に仕込まれた発想は鋭く、読後もしばらく頭から離れません。
作者様の、研ぎ澄まされた視点の勝利です。
どうか一度、この“優しすぎる世界”を覗いてみてください。
きっとそのあと――
「優しい」という言葉を、少しだけ問い直したくなるはずです。