荒廃が進み、緑が失われつつある世界。
そんな中で、リクトが作り始めるのは、大きな魔法でも壮大な革命でもなく、小さなテラリウムです。
この始まり方が、とても好きでした。
水槽に砂利を敷き、木炭を重ね、土を盛り、石や流木を配置し、植物を一つずつ植えていく。
その工程がとても丁寧に描かれていて、読んでいるこちらまで一緒に箱庭を作っているような気持ちになります。
リクトの行動は、最初はあくまで自分の趣味であり、自己満足のための小さな楽しみです。
けれど、その小さな緑の世界に精霊がやって来ることで、物語は静かに広がっていきます。
この作品の魅力は、派手な戦いや大事件で世界を変えるのではなく、植物を育てること、環境を整えること、相手を驚かせないように見守ること、その積み重ねが少しずつ世界に影響していくところだと思います。
精霊の描写も本当に可愛らしいです。
言葉を話さなくても、長い耳の動きや小さな仕草だけで、不安や安心、興味や喜びが伝わってくる。
リクトが距離を取りながら見守り、水槽のバランスを考え、精霊にとって居心地のいい場所を整えていく流れに、とても優しい時間が流れていました。
同歩成様の作品は、身近な題材や一つの発想を、物語として面白く広げる力が本当に魅力的です。
今回はテラリウムという小さな世界から、荒廃した大地や精霊の生態、そして未来への希望までつながっていく構成がとても心地よかったです。
小さな水槽の中に生まれた緑。
そこから溢れる潤いが、乾いた世界を少しずつ変えていく。
穏やかで可愛くて、読み終えたあとに胸がほっと潤うような作品でした。