本作は主人公の独白とニュース音声を並べる事で、読む者へ物語の全体像を想起させる作品だ。
朝のテレビニュースで自宅近所の映像を見た主人公。
しかし、タイミング悪く内容は報じられた後だった。
そのニュースの内容がとても気になる主人公は、周りの人たちへ聞くだけでは収まらず、子どもの学校の保護者のメッセージグループへニュースの内容を尋ねだす。
しかし、ここで物語は一転する。
彼女の夫の過去が語られるのだ。
主人公の出産を気遣い、単身赴任していた頃に夫の住んでいた独身寮の事。
双子の娘たちの誕生を喜ぶ、周囲に評判のよい優しい夫。
すべては彼女の思い出での中の出来事だ。
そして物語は読む者へ、また別の情報を与える。
現住所に近い、過去に夫のいた独身寮の跡地を不法侵入者が掘り返す。
作中ではそんな、ニュースが報じられているのだ。
ここまで本作を読んだ者は、主人公の記憶と報道という断片を元に、物語の中の大まかな事実を得るだろう。
独身寮跡地には、何が埋まっていたのか。
不意に聞こえる聞き覚えのない男の子の声の意味する事とは。
夫は、ほんとうに出張に行ったのか。
いずれも作中で明確な答えは示されない。
それでもたぶん、読む者の中には嫌な仮説が出来てしまうだろう。
本作は日常ミステリーとして読んでいたものが変容してゆき、最後は怖気を残して終わる物語だ。
怖さを描かず、読む者に怖さを思い描かせる。
そんな見事な筆致の短編ホラーでもある。
この文を読む方が、本作を未読であるならもったいない事だ。
ぜひとも、一読することを勧めたい。
それほど優れた作品なのだ。
【レビューコンテスト応募】