第5話|好きだと言った日
目立つことの罰
物心がついた頃から、同じ言葉を何度も聞いてきた。
「かわいいね」
「将来モテそうだね」
知らない大人が、少しだけ楽しそうに言う。
親戚の集まりでも、スーパーでも、病院の待合室でも、同じだった。
最初はただの挨拶だと思っていた。
名前を聞かれるのと同じ種類のものだと。
だから、笑って「ありがとうございます」と言えば終わると思っていた。
でも、終わらなかった。
そのあとに残る空気が、少し違った。
同じ年頃の子たちが、ほんの少しだけ離れる。
誰もはっきり避けたりはしない。
笑顔のまま、自然な距離を保つだけ。
輪の中に入っているのに、中心には入らない。
話しかけられても、会話は長く続かない。
理由は分からなかった。
何かした覚えもないし、何かを言われたわけでもない。
ただ、回数だけが増えていった。
小学校に上がる頃には、理解していた。
視線が増えるほど、会話は減る。
「いいよね」
「どうせ」
小さな声は、なぜかよく聞こえる。
聞こえないふりを覚えるのが、少し早くなっただけだった。
成長するにつれて、言葉ははっきりしていく。
「調子に乗ってる」
「自分で分かってるんでしょ」
何もしていない、と説明しても意味がないと知る。
していないことが、むしろ理由になる。
目立つだけで、説明がいらなくなる。
そこで初めて学ぶ。
褒められることは、安全じゃない。
見られることは、好かれることと違う。
むしろ逆だと、体感で覚える。
だから隠すことを覚えた。
前髪を伸ばす。
顔の輪郭をぼかす。
大きめの眼鏡をかける。
似合うかどうかは関係ない。
目立たないかどうかだけを基準にする。
服も形が分からないものを選ぶ。
体の線が出ないサイズ。
色も主張しないもの。
鏡を見るとき、確認するのは可愛いかじゃない。
“普通に見えるか”だった。
そうしていくうちに、言葉は減っていく。
視線も減る。
完全に消えることはないけれど、痛くない距離になる。
静かになる。
それが安心だった。
褒められなくなる代わりに、嫌われなくなる。
誰の感情も大きく動かさない場所に立てる。
それが一番楽だった。
だから、可愛いと言われないようにした。
言われないことが、安心だった。
何もしていないのに嫌われるより、
何も見られない方がいいと思った。
ずっとそうやってきた。
何もしていないのに、
嫌われる理由があることを、
早くに知ってしまったから。
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