人の魂の闇

人の魂

第1巻:ノイズ — プロローグ:雨の中のスタティック

雨は前触れもなく降り出した。

雷鳴もなく、雲が徐々に厚くなることもなかった。空は一瞬にして淀んだ灰色から濡れたアスファルトの色へと変わり、校庭に水の壁が叩きつけられた。


その変化は、群衆のメカニズムを即座に作動させた。一秒前まで気だるげに敷地内をうろついていた何百人もの生徒たちが、突如として慌ただしく動き出した。彼らは鞄で頭を覆いながら、屋根の下や入り口へと走り出した。空気は騒音で満たされた。女子たちの悲鳴、男子たちのわざとらしい笑い声、崩れたヘアスタイルや濡れた靴に対する不平不満。


「雨って最高!」誰かが走り抜けざまに叫び、直後に嫌悪感を露わにして袖から水滴を振り払った。


彼らは嘘をついていた。雨など好きではないのだ。彼らが愛しているのは、雨が退屈な日常にもたらすドラマの「模倣」だった。安全で、共有できる話題が手に入るのが嬉しいのだ。この喧騒、水から逃げるという無意味な疾走――それこそが彼らの人生だった。ノイズだ。


アオイは校庭の中央に立っていた。


彼は走らなかった。歩みを速めることすらしなかった。水は瞬時に学生服に染み込み、布地を重く冷たくして、彼の痩せた肩に張り付かせた. 黒い髪は束になって額に張り付き、目にかかっていた。


だが、彼は瞬き一つしなかった。


ただ立ち止まり、空へと顔を向けた。重い雨粒が顔を打ち、頬を伝い、襟首へと流れ込んだ。彼の肉体は「寒さ」という温度を記録し、彼の耳は「水音と人々の叫び声」という音を記録していた。しかし、内面には何の反応もなかった。


苛立ちも、悲しみも、映画で好まれるような安っぽい「メランコリー」すらない。

そこにあるのは静寂だけ。完全なる、死んだようなスタティック(静的状態)。


彼はゆっくりと頭を下げ、前を見た。雨のカーテン越しに見える世界は、黒い人影が不規則に動く、ぼやけた灰色の泥濘(ぬかるみ)のようだった。彼らを見ても、何の感情も湧かなかった。ただノイズを発生させる動的なオブジェクトに過ぎない。


アオイは一歩を踏み出した。古い靴が水たまりで泥の音を立てた。彼はゆっくりと校舎の入り口に向かって歩き出した。この校庭でただ一人、逃げようとしなかった存在として。

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