北アルプス・穂高連峰を舞台に、極限状態での「生への執着」と「罪悪感」を鮮烈に描く山岳スリラーである。優秀な双子の弟だけが愛された家庭環境という背景が、生存者となった兄の孤独を深めている。新穂高ロープウェイや西穂山荘などの詳細な情景描写が秀逸で、山岳信仰や「姑獲鳥」の怪異を織り交ぜることで、単なる遭難事故に留まらない幻想的な恐怖を構築している。亡き弟の恋人・咲乃が夜の山荘に現れる幕切れは、背徳感と不気味さが入り混じり、読者の心理を巧みに揺さぶる。
山岳小説や心理的なホラー、因習・伝承にまつわる物語を好む読者におすすめできる。