第9話 夜道の探し物

「……ごめん、何も情報掴めてない……。」


作戦会議で、こむぎが申し訳なさそうに言った。それを聞いた祈里と神奈は目を丸くした。


「めずらしいね、むぎむぎ。」


「パソコン壊れちゃって、修理に出してるの。掲示板パソコンでしか見れないから、他の手段で探してみたんだけど、スマホ制限されて……。」


「仕方ないよ、ありがとうねいつも。むぎむぎに任せっぱなしで申し訳ないや……。」


申し訳なさそうに慰めと謝罪をする祈里の横で神奈はなにか暗い顔で考えている。

「……これ、さ……いまいち信憑性無いけどうわさ話聞いたの、聞く?」


「「え?」」


神奈の口からそんな言葉が出たのは初めてのことでこむぎと祈里は豆鉄砲を食らった。


「聞く!」


前のめりになりながら祈里は神奈の話を聞くが、こむぎはスイーツの片手間に聞く姿勢を取っている。

「……わかった。あのね、近所の人が話してたんだけど……」


「最近、夜道を出歩くのが危険……なんだって。」


「危険?それって不審者とかの話じゃないの?」


祈里は幽霊では無く人間の話かと少し落胆しながら聞いた。


「ううん、あんまりちゃんと知らないんだけど、この間近所の人が家の外を見た時人とは思えない大きさの黒い何かが窓の外を通っていったとか……」


「……黒いなにか?」


「一瞬で見えなくなって、なんだったのかわからないまま……だって。それも目撃情報は何人も居るみたいなの。」


「……これは、私達でなんとかしなきゃだね。」


祈里は人間の仕業ではないとわかった途端調子が良くなって、力強く言った。こむぎは手に持っていたフォークを置いてスマホでメモを開いた。


「ンナ、その目撃情報、場所はどこ?時刻は?」

「えっと、場所は……」



それから、2日後……祈里はいつもの時間になるまで家で待っていた。神奈とこむぎの到着を待ちつつ、噂について考えていた。


「(黒いなにかか……どんなやつなんだろ?今までと違って子どもに取り憑いていないってことだよね。でもそんなこと今まで聞いたことなかったけど……)」


考えていると、祈里のスマホに通知が届いた。スマホを見ると通知の正体は3人のグループ、神奈からだった。


『たすけて』


『かいいが』


焦っているような文面、途中で切れる文章、助けを求める内容…緊急事態であることは一目瞭然だ。


「カンナ?!……お願い!電話つながって……」


脊髄反射で神奈のスマホに電話をかける。”かいいが”という言葉から、事件性はおそらく無い……はずだ。


「……こむぎ……!!」


神奈のスマホは繋がらない。ならばこむぎだ。



「……繋がらない。」


スマホを持つ手がだらんと落ちる。絶望し、どうしようもなく呟いた。


とにかく、祈里は何も考えていないが家を出た。だがどこへ行こう?


祈里は己の不甲斐なさ、そして何もわからない恐怖で泣きそうだった。


『僕も上条さんたちの助けになりたいから。助けに行ける時はすぐ向かうよ。』


その時、祈里の頭に燿の言葉がフラッシュバックした。祈里は衝動的に燿に電話をかけた。


「(かかって……)」


『prrrr……』


『prrrr……』


『prr……』

『もしもし?上条さん?』


「……っ、あ……あっちゃぁん……たすけて……。」


燿の声を聞いて思わず泣き出してしまった。


『”いのちゃん”!?大丈夫?……ゆっくりでいいから、落ち着いたら事情教えて?』


「うん……ありがとぅ……。」


「……あのね、神奈とこむぎが怪異に襲われたかもしれないの。電話かけても2人とも出なくて、」


「どうすればいいのか……わかんないの。」


『……そっか』


しばらく、電話口から声が聞こえなくなった。祈里は今になって、彼女持ちの男の子に電話を急にかけてしまったことを悔いた。


でも今更だし、気持ち的にも今切るのは嫌だ。


『上条さん、聞き込みしてみるのはどう?』


「き、聞き込み?でも、今の時間帯で歩いてる人なんて居ないよ。」


『そうだね、人は居ないだろうね。でも、幽霊は居るかも。』


「それはそうかもだけど、私幽霊見えない……」


『大丈夫、僕がおまじない掛けてあげる。一時的に霊感が高まるおまじない。』


「おまじ、ない……安倍くん、お願い。」


『わかった。電話越しじゃ不安だけどやってみる。』

『それじゃあ、精神統一して、僕の声だけ聞いてて。』


促され、祈里は目を閉じ、 燿の声に集中した。


電話口からお経のような声が聞こえる、だが、その声が燿の声だから祈里は安心しながら聞いた。


『……どう?なにか見える?』


お経が止み、祈里は目を開けた。おまじないの掛けられた祈里の目が、少し遠くにいる”なにか”を捉えた。それは、白い靄のような物体ふらふらと浮いている。


「……白い何かが見える……かも。」


『多分それは浮遊霊の一種だと思う。害はないから安心して。それじゃあ、おまじないは成功したってことだね。』


「うん、ありがと、安倍くん。」


『どういたしまして。それじゃあ、幽霊に聞き込みするに当たって気をつけてほしいことを伝えるから覚えといてね。』


「うん。」


祈里は集中して燿の言葉を一言一句聞き逃さないよう、脳をフル回転させる。


『まず、見るからに害のありそうな幽霊に近づかないこと。大抵の幽霊は見えてないふりをすること。』


『話しかけられても聞こえていないふりをすること、話しかけてくる奴らは何するかわからないからね。』


『そして、言語能力のある幽霊かつ害のなさそうな幽霊に話しかけること。もし、これを守れなかったら全速力で逃げて。』


『上条さんならきっと追いつかれることはないだろうから、でも決して油断はしないでね。』


「わかった、気をつける。……安倍くん、急に電話しちゃってごめん、ありがとう。」


『ううん、気にしないで。僕も、こんなことしか出来なくてごめん。無事を祈ってる。』


『頑張って、またいつでも電話して。次呼ばれたらそっち行けるよ……』


ブツッ……


電話口の燿の声がぶつ切られた、見るとスマホの電源が切れている。


壊れたのか、いくらボタンを押してもつかない…。


仕方無し、スマホ無しで祈里は夜の街に挑む覚悟を決めた。


だが、このあたりには浮遊霊、会話もできなさそうな幽霊しか居ない。祈里は意を決し、別の道へ向かった。



別の広い道に出ると、そこにはいろんな幽霊が居る。


青白い顔色でなにかを呪うかのようにぶつぶつと呟きながら歩く男の幽霊。


首から上のないスーツ姿の幽霊が何かを探し彷徨い続けている、探しているのは頭なのだろうか?


得体のしれない何かをボール代わりに遊ぶ子どもたちの霊。


どこにも話しかけられるような幽霊が居ない、移動しながら探す。


すると、遠くで長い黒髪と白いワンピースを着た、尋常じゃないほど白い肌の女の人がおーいとこちらに薄ら笑いを浮かべながら手を振っている、その姿はこちらを招いているような気がしてならない。


気味が悪い…。


どこに行ってもどうしようもないので、やけっぱちになって祈里は犬の幽霊に話しかける。犬なら大丈夫だろうと思って。


「わんちゃーん、何か知ってること無い〜…うっ……?!」


振り向いた犬は人の顔をしていて、いわゆる人面犬というやつだった。


「ほっといてくれよ……俺に構わんでくれよ……」


「……。」


衝撃的なことに祈里は固まり、しばらく動けなくなった。だが、祈里は立ち去ろうとする人面犬を引き止めるため、弾かれたように人面犬に近寄った。


「あのー!教えて欲しいことがあるのですが!」


「ほっといてくれ……言うことなんか無いさ……」


この人面犬、パグのような体つきをしていながら顔はやつれた中年男性の顔で、ブサカワ、キモカワなんてもんじゃないが、一度アクセルを踏んだ祈里は無敵だ。


いくら不気味だろうともう止まらない。


「この……この子たち、知りませんか?」


スマホがつかえない今、使えるのはスマホケースに入れているプリクラだけ。そのプリクラも加工が激しく、元の顔を正確に予測するのは厳しい。


「……俺よりも知ってるやつがいるから……俺なんかほっといてくれよ……」

「誰!?それは誰なんですか?!」


「……この先の空き地にいる……散歩が好きなやつで色んな所行ってる……」

「わかった、ありがとうございました!」


空き地……祈里がよく遊んだ馴染みの場所……だがあまりいい思い出があったわけではないし、どんな幽霊がいるのかと少し足が重くなった。


だが背に腹は代えられない、祈里はその空き地へと向かう。

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