ゲーム・ゲーム・ゲーム
第10話 Nostalgic
――中隊長。なんとか逃げ切れましたね。
――ええ。犠牲は多かったけれど…。でも、私たちみたいな正しい思想を持つ者が負けるはずが無いわ。
――はい、私も―――
―――ドッゴォ!
――そう思いま…え?
ーーー|ーーー
「ッ!……はぁ…。」
夢、か。
「中隊長ぉ…」
ゆうべ、三浦さんと東間ちゃんから、「この世界の本当のこと」を聞いた。
大真面目に話してる2人が滑稽すぎてニヤつきながら聞いてたんだけど、2個ほど聴き逃せないことがあった。
まず、今年の夏にこの体制が崩壊するってこと。
へええ、と思った。
感動は、あんまし無い。
だって今までずっと流れてた急流がいきなり止まるとか、想像できないじゃん?
なので、あくまで希望程度に考えておくことにした。
もう一つは、三浦さんが「本当に」みんなを殺したってこと。
へへへ、思わず3発くらいぶん殴っちゃった。三浦さん一般人だから、顔周りの骨が全部逝ったかも知れないけど、まあウェゼル院長の手にかかれば大丈夫でしょ。5人殺した罪に比べれば安いもんだよなぁ?
ククク…。これからずっとこのネタ擦ろっと。罪悪感で自殺まで追い込んでやる…。
さて。今、2人にとって私は「仲間を失ってショック…でも世界の本当のことを知っちゃった!そっちのがオドロキ!」みたいな感じで見えてるはず。てかそうなるよう演技した。伊達にファシズム世界渡り歩いてないねんぞこちとら。
あと私も転生者ってことも伝えてません!その方が面白そう(悪魔)。
「う、んん…はあ。さーて、今日はのんびりしますか…。」
今日は平日――なんだけど、中隊の欠員数が誤魔化しきれないから上からの指示で学校を強制転校。今はその手続き中なので、お休みだ。
うーん、ゲーム知識とかあったって何も意味無いもんな…。死ぬときゃ普通に死ぬし。
あ、そうだ。
最近何でも、華蔵ちゃんが廃人と化しているそうだから――どれ、隊長が「楽器」にしてあげよう(ゲス顔)。
ーーー|ーーー
「ぅおああああ゙あ゙あ゙♡!?!?」
「へへへ…。」
あんまり体重の重くない華蔵ちゃんを担ぎ上げて自室へ連れ込み、手早くロープを組み上げて完成したのは、しゃべる肉楽器。
「みづぎィッ♡!? なにして…あ゙ッ♡!」
「ん、正気に戻りましたか?でも残念、もう逃げられないゾ♡」
「ひっ、ひっ、あ゙あ゙あ゙あ゙ッ♡い、【検閲済】ッ♡!うわあ゙あ゙あ゙あ゙♡!?」
華蔵ちゃんは、何と幼少期にはおうたで活躍していたそう。その名残なのか、こうして思いっきり叫ぶとかなりデカいのが出る。防音魔法が存在して良かった…。
まあ叫ぶと心がスッキリするって言うし…。これも治療のひとつです(適当)。
「翠月、ちょっといいか……え!?」
「百合に挟まんなボケ」
「ぐぼぁ!?」
いきなり三浦さんが部屋に入ってこようとしたので魔法で強制脳震盪を起こし、その場に気絶させた。百合に挟まっていい男はゲイだけやで?
「すいません翠月さん、なんか部屋の外に三浦さんが倒れて……うげ!?」
今度は東間ちゃんがやって来た。私の記憶には無いけど、以前したコトが若干トラウマなのか固まっちゃった。
「差し入れですか?ありがたい。」
差し入れ…百合の花の、な!
【 検 閲 済 】
ーーー|ーーー
「うう…ひどい目にあった…」
と涙ぐむのは、正気を取り戻した華蔵ちゃん。
「んー、でも良かったんじゃないですか?悲しかったこと、ぜーんぶ快楽に上書きされちゃったみたいですし。」
「言い方ァ!」
うんうん、ちゃんとツッコめるくらいには回復したみたいだ。よきかなよきかな。
「ま、まあでも?確かにうじうじ悩むことはなくなったけど…。そこだけは感謝しておく。」
「いいってことです。魔法少女あるあるですよ。」
「前から思ってたんだけど何なのそのあるあるって…?」
「うううっ…もうお嫁に行けない…」
一方こちらで丸くなっているのは、戦犯転生者こと東間ちゃん。この間言ってた「頭いい人感じやすい説」を半ば強引に検証した結果、こんなになっちゃった。結果失敗、またやろうね…♡
「なーに言ってるんですか東間ちゃん。魔法少女になった時点で死ぬまでお嫁になんていけませんよ。」
「え…そうなの、翠月?」
「…?知らないんですか?私たち人間判定じゃないので婚姻とか結べないんですよ。養成学校で習いませんでした?」
「あー…。私、居眠りばっかりしてたから聞き逃したかも…。」
何気にショックを受けたらしい華蔵ちゃん。一体何年魔法少女やってるんだか…。
ーーー|ーーー
適当なところで2人を解放し、何かする気にもなれないのでソファーに寝そべってお菓子片手に怠惰なアニメ鑑賞。
「はぁ…。ロクなのがありませんね…。」
スナックをボリボリと頬張りながらテレビのアプリを操作し、今季のアニメを流し見る。だが、どれもこれも興味を引かない有象無象ばかり…。
「…。」
ふと、本当に突然、今朝の夢が蘇る。
「中隊長…。」
前中隊長は…、はたから見れば頭おかしい、しかし仲良くなればこの世界で一番「マトモ」な人だった。
前中隊長――富士先輩は、あるレジスタンス組織の一員だった。
その組織は、世界首都ゲルマニアで超巨大クーデターを起こし、この世界からファシズムを駆逐すること――を、目的としていたそうだ。
今思うと、よくもまあ見つからなかったと思う。2秒外を眺めるだけで2、3人の秘密警察を見かけるこの世の中で…。
では、私がなぜそのことを知っているかと言うと――、恥ずかしい話ながら
変態的趣向も少なめで、半端な正義感を燃え上がらせ、どうにかこの世界を「正しく」しようと考えていた。今思うと、何が正しいのかって話だけどね。
そんなこんなで、比較的仲良くなってきていた富士先輩に、ファシズムについての疑問をぶつけてみた。…奇しくも生前の玲ちゃんのように。
「富士先輩。この世界、おかしいと思いませんか?」
「!?!?!?」
目を見開いた富士先輩は、いそいそと私をトイレに連れ込み、お説教しながら爆速でメモ帳に文章を書いてきた。
『バカ新人、ファシズムに文句があるならしかるべき場所で言え』と。
その後いろいろあってその組織の密会所に連れてかれて、一晩中思想について語り明かした。
そこで、まだ組織に加入もしてなかったのに、私は組織についてを教えられた。
まあ、「出来るわけない」と思ったね。
でも、当時の私からしたら、やってもらわなくちゃ困る、という感じだった。
その後先輩にしつこく勧誘されて、組織に加入しようと思った。思ったんだけど…。
その直後に、富士先輩は死んだ。
私は組織との繋がりを失い、密会所も定期移動?みたいなのでもぬけの殻。
今は、その組織が存在してるのかすら知らない。
今は、入らなくて良かったと思う。いわば当時のあれは、前世感覚が残ってたからこそ…、若気の至りに近い感情だった。
このクソ世界において、ファシズムへのレジスタンスは重罪だ。生き埋めとかそういうレベルの惨たらしい刑罰が待っている。
…だから、入らなくて良かったと思う。
「…お。」
ふと、作品一覧の中に気を引くタイトルのアニメがあった。
再生ボタンぽちー。
…富士先輩のビッグメロン、触ってみたかったなぁ…。
ーーー|ーーー
私は、三浦さんこと三浦くんとともに、今後について協議していた。
「だから、適当なレジスタンスに協力してもらって…。」
「いやいや、そもそもそれを見つけることすら難しいんだぞ…。」
「でもそれくらいしか方法は…。」
――私たちがやっているのは、世界が荒廃する途中、どのようにして生き延びるのかの相談。
この世界は、圧倒的中央政権だ。地域ごとの行政長官も、ほとんどお人形に等しい。
それはつまり、裏を返せば頭が潰れれば手足は止まるということ。そして彼の見たゲームストーリーでは、それが起こる…。
聞いたところによると、本来の主人公が所属するのはここ関東本部ではなく、九州本部だそうだ。そこから混乱した各本部から腕利きの魔法少女を集める、という進行。
この世界に主人公がいるのかは甚だ疑問だが、いる場合といない場合両方に備えるべきだろう。
当面の目標は、ストーリー開始までの生存手段、それから237中隊の再編とその強化。
中隊の再編についてはオペレーターが一定の権限を持っているらしく、2、3人程度なら希望が通るそう。なので彼のゲーム知識を活用して、強力な魔法少女を引き入れるという寸法だ。
またその他の補充メンバーについては、同時期に壊滅した中隊の生き残りからランダムに割り振られるらしい。ちなみに237中隊がその対象外なのは、生き残りがフルメンバーの半数だから。
…ところで中隊壊滅の判定は、ほとんどの近接戦闘員が死亡すること、らしい。結構適当だ。
「…まあいい。既に補充の申請は出しておいた。生存手段については…、まあ最悪本部から分離して山奥で農業でもしよう。それが出来るくらいには混乱するはずだ。で、半年間をしのぎ、主人公がいれば合流を、いなければ民主主義の種を撒きつつコードネーム理不尽討伐を目指す、って感じだ。」
三浦くんのまとめに、うなずく。
ゲームでの最終目標は、コードネーム理不尽の討伐。いちおう三浦くんはその後までプレイしたらしい。
しかし、ただ討伐しては意味が無い。混乱の種が消えたら、また各地で行政長官が息を吹き返すだろう。そうなれば、解決したように見えてなにも解決していない。
魔獣討伐の道中で、国民に民主主義の意識を芽生えさせる…。それが、第2の主目標だ。
「本部の上層部には、中隊の連携強化の名目でクラスBの任務を優先的に回してもらうよう頼んである。これでしばらくはレベリングし放題だ。」
三浦くん曰く、この世界も元はソシャゲの世界なのでレベル要素があるらしい。…それを確認できるのは主人公だけ、という設定だったみたいだけど。
実力的に、翠月はレベル38、私はレベル21くらいだそうだ。翠月のレベルは、おおよそゲームの初心者がきちんとしたレベリングをすれば1ヶ月で到達出来るくらい。そのゲームは結構レベルの上昇速度が緩かったみたい…。
「もうあと1週間もすれば、補充の人員が全員到着するはずだ。みんな元本部属だから、面接試験もいらない。あとは翠月が上手く纏められるかだが…。」
「…問題でも?」
「ああ、ちょっと…というより、大分性格に難のある奴がいる。付き合いにくいってわけじゃないんだが、翠月の立場からするとな…。」
…どうやら問題児がいるようだ。
「うーん…。三浦くん、そのゲームってキャラストもあったんだよね?なら、それを活用して私が何とかしようか?」
「本当か!?確かにそれなら、翠月の負担も減らせそうだ。…よし、任せてくれ。できる限りストーリーを思い出す…。」
――こうして、密かに、しかし確実に計画は練られていった。
夏までは、まだいくらか時間がある。…それまでに、新生237中隊を強くしなければ。
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