毎日、淡々と繰り返される通勤電車の車窓。
その風景の中に主人公はある日、ひと組の母娘の姿を見つけます。
母親と離れるのが寂しいのか、最初はいつも泣きじゃくっていた幼稚園児の女の子でしたが季節の移ろいとともに成長し、やがて主人公の乗る路面電車に笑顔で手を振るように。
その姿を『かつての愛娘』の面影に重ね合わせる主人公の眼差しが、非常に優しく、胸を打ちます。
この作品は時間の流れをとても上手く描きだしていると感じます。
女の子の制服や帽子のリボン、あるいは落ちてくる粉雪を見上げる仕草など、季節の移ろいが細やかに描かれ、読者は一本のフィルム映画を眺めているような錯覚さえ覚えるはずです。
忙しない毎日の中で、つい見落としてしまいがちな『日常の愛おしさ』を思い出させてくれる一作。
読み終えた後、大切な誰かのために甘いケーキを買って帰りたくなるような、そんな優しい気持ちにさせてくれる作品です。
「私」は通勤で路面電車を使う。
いつもと同じ時間。いつもと同じ同乗者。いつもと同じ景色。
そんなある日、いつもと違うものがあった。
窓から見た風景の中、小さな女の子が泣いていた。
幼稚園の服を着て、母親に縋って泣いている。
時は少しずつ進み、女の子の姿に季節の移ろいと女の子自身の成長を見る。
成長する姿をまぶしく見つめながらも、一方では寂しさも覚える。
成長の先にある旅立ちを想像してしまうのだろうか。
「私」の複雑な感情が浮かび上がる。
路面電車から見る景色に、時の移り変わりを静かに感じる。
春になればまた一つ、彼女たちの成長を強く感じるだろう。
でもまだ今は、春の前。
心がじんわりあたたまるようなとてもやさしい作品なので、ぜひご一読を。
ある日の通勤時、路面電車の車窓から見た幼稚園児の女の子。
「私」はその子を幼い頃の娘と重ねて、毎朝車内から温かく見守ります。
季節が移ろうなか、出会った頃は毎日泣いていた女の子もすっかりお姉さんに。
ふたりの間に交流はありませんが、今日も路面電車の通過とともに交わされる挨拶。
もうすぐ春。女の子はまもなく小学生になります。
◇
自分の幼子の成長を側で見守りたいときって、えてして人生で一番脂が乘って仕事が忙しい時期でもあるんですよね。
当たり前といえば当たり前ですが。なかなかままならないものです。
おそらく本作の「私」も仕事に明け暮れるなかで娘さんの成長を見逃してしまったクチなのでしょう。その時間を取り戻すように、名前も知らない女の子の成長を見守り続ける視線はどこまでも優しいです。
路面電車っていいですね。
健気に各駅停車でゆっくりと進む路面電車っていいですね。
とても心が温かくなるようなお話。
おすすめです。
ぜひ。