第8話 ぽっちゃりエルフ
「ムムッ!」
俺は拳を構え、視線を走らせた。
シャルとリーナはビクッと肩を震わせ、俺の近くで身を縮めた。
シャルが俺を見上げる。
「先生! この声、オオカミ!?」
「いや、どうもこの遠吠えは、オオカミよりマズいモノだ」
気が付けば、木陰の薄闇に赤い目が点々と光っていた。
リーナがただでさえ白い肌を、蒼白にさせて叫んだ。
「へ、ヘルハウンド!? なんでこんなところに!」
「あぁ。モンスターだな」
俺は涼しい顔で言った。
モンスターとは魔力自体から生まれたモノや、魔力にアテられた動物が変化したモノを起源とする生き物だ。獰猛で、人を襲う。
シャルは怯えながら、俺とリーナの前に出て、勇敢にロングソードを構えた。父親が昔使っていたらしいそれは、シャルの小さな身体には不釣り合いなほど大きかったが、中々さまにはなっていた。
「いいぞ。ヘルハウンドの皮は難燃性でそこそこ上等な防具の材料になるんだ。モンスターは捨てるとこがないほど、素材の宝庫だからな!」
俺の言葉に、シャルは剣を上段に構えつつ応えた。
「先生! 危ないから離れてて! 直接戦闘はわたしみたいな剣士の役目!」
「ふむ」
俺は腕を組んだ。ヘルハウンドは冒険序盤で遭遇していいモンスターではない。中級冒険者がパーティを組んでも厄介なモンスターだ。
(だが……)
俺は悩んだ。俺の拳なら、ヘルハウンド程度のモンスターの頭骨は一撃で割れる。
しかし、シャルが昨日のトレーニングと俺のペースで迷いの森をトレッキングした成果が見たい。
俺のスキル、トレーナーは真摯にトレーニングに情熱と気持ちを捧げた者に微笑む。
シャルみたいなドのつく生真面目さと熱意の持ち主なら、もうすでに――
「やぁ!」
シャルは襲いかかってきた黒い影に一撃を加えた。体重の乗った突きだ。
おぞましい断末魔を上げ、ヘルハウンドが胸を一突きされて倒れた。
「わ、わたし……」
シャルが信じられないといった様子でヘルハウンドの死骸を見下ろした。
駆け出し冒険者がヘルハウンドを一撃で倒すなんて、通常ありえない。
俺は満足気に笑った。
「シャルよ! 二時の方向から来るぞ!」
「はい! 先生!」
シャルが剣を構えなおし、また一頭斬り伏せた。続けざまに、もう一頭を串刺しにするが、それは悪手だった。
剣が深く刺さりすぎて、抜けない。シャルはあたふたと焦った。その隙をヘルハウンドが襲う。
(しょうがない。まぁ、初めてにしては上出来も上出来だ)
俺は助太刀しようと地を蹴ったが、俺を「ヒュンッ」という音とともに矢が追い越した。矢は見事に命中し、ヘルハウンドを倒した。
俺は喜びを隠しきれず、満面の笑顔でリーナに振り向いた。
「リーナ! よくやった!」
「ま、まぁリーナはこれくらい朝飯前です!」
リーナも自分が弓を引けたのに驚いているようだった。
(自分が鍛えた者の成長を見る……! 忘れかけてたッ……そうだ……ッ! これが、俺の道……! トレーナー道だ……ッ!)
俺が手を下すまでもなかった。
シャルが剣を振るい、リーナが矢で援護をする。小柄な少女である二人が剣を振るうたび、矢を放つたびに確実に死を撒き散らす。
だが、キリがなかった。
ヘルハウンドは次から次に、壊れた蛇口のように森の奥から噴き出す。
「おい、二人とも! 上出来だ! いったん、引くぞ!」
二人は少し息を上げていたが、傷一つない。
「先生、わたしまだ戦えるよ!」
「それは分かってる。だが、調子に乗ると思わぬケガをするものだ。今日のところは十分だ。自分の力が知れて、少し自信もついたろう」
俺の言葉に、シャルは素直に頷いた。
リーナは頬を膨らませる。
「リーナは余裕なんですけど!」
「黙りねィ! このポッチャリーナが!」
「ポッチャリーナ!?」
リーナが目を白黒させた。
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