第8話暴かれた秘密と、祭りの予感
教室に入ると、昨日俺を負かした高橋が、神妙な顔をして俺を待ち構えていた。
昨日の勝利を鼻にかけて煽ってくるかと思いきや、その表情はどこか……怯えているようにも見えた。
「……おい、高橋。今日は朝から何の用だ。お前と話すことは何も」
「晴山……。お前、昨日わざと負けただろ」
「……は?」
高橋が声を潜めて、俺の胸ぐらを掴むくらいの勢いで顔を近づけてきた。
「昨日、俺たちの『観察』は完璧だった。お前の筋肉の弛緩からして、お前は間違いなく『パー』を出すはずだった。……だが、最後の一瞬、お前は自分の意志で指を曲げた。……なぜだ?」
俺は言葉に詰まった。
(……こいつ、気づいてやがったのか。俺がユナの音に動揺して、自滅したことに……)
「お前ほどの男が、あんな凡ミスをするはずがない。……晴山、お前、まさか『負けることでしか守れないもの』でもあるのか?」
高橋の問いかけに、俺の心臓が嫌な音を立てた。
俺の能力——。
それは単なる直感じゃない。
実は、**「勝てば勝つほど、俺の周囲に不運を撒き散らす」**という、最悪の代償がある……としたら?
俺が連勝を続けていた間、ユナの不運が加速していたのは、もしかして俺のせいだったのか?
俺は高橋の手を振り払い、何も答えずに席に着いた。
一時間目のチャイムが鳴り、担任の朝霧先生が教室に入ってきた。
先生は出席簿を教卓に叩きつけると、眼鏡をクイッと押し上げる。
「えー、静かに。今日は大事な連絡がある。……来月の『学園祭』についてだ」
教室内が、一気に「おっ!」という期待の色に染まる。
「今年の我がクラスの出し物は、学校側からの指定で『体験型アトラクション』に決まった。……でだ。その実行委員を2名、今から決める」
クラス中が静まり返る。実行委員——。
それは、放課後の自由時間がすべて消える「地獄の役職」だ。
「決め方は……。まあ、うちのクラスらしく『じゃんけん』でいいな。じゃあ一番最後まで勝ち残った奴と最初に負けた『不運な2人』にやってもらう」
「(……マズい)」
俺の頭の中で警報が鳴り響く。
いつもなら余裕で「わざと負けて」回避するところだ。
だが、今の俺には高橋に投げかけられた疑惑がある。
「白雪さーん。あんた、絶対負けちゃダメだよ!」
「う、うん。頑張るけど……自信ないよぉ」
ユナが不安そうに拳を握る。
俺は見た。
ユナの視線が、一瞬だけ俺と重なったのを。
彼女は、俺が「勝って」くれるのを信じている。
だが、ここで俺が勝ってしまえば、俺の能力の「代償」がユナをさらに不運に陥れるかもしれない。
「……最初は、グー。じゃんけん――!!」
教室のあちこちで、怒号のようなコールが上がる。
俺の右手が、熱を帯びる。
(勝てば、ユナと一緒に実行委員になって、あいつを守れる。……だが、俺が勝つことは、ユナにさらなる『爆発』や『事故』を呼び込むことになるんじゃないのか……?)
俺の中に、新たな**「秘密の葛藤」**が生まれた瞬間だった。
「おっ、晴山。今日は気合が入ってるな」
朝霧先生が、ニヤリと笑って俺の背中を叩いた。
「ちなみに今年の実行委員は、中庭の特設ステージの使用権も左右するからな。……勝てよ、晴山。お前の『右腕』に、クラスの運命がかかってるんだからな」
「………………」
重い。
これまで、給食のプリン程度の重みしか感じていなかった俺の右手が、今は鉄の塊のように重く感じられた。
「じゃんけん、ポンッ!!」
第一陣。
クラスの半分が拳を突き出す。
俺の視界が、火花が散るような速度で情報を処理していく。
クラスメイトたちの指の動き、肩の揺れ。勝てる。全部見える。
だが、俺の視界の端で、信じられない光景が起きた。
「あ……」
ユナが、力なく突き出したのは『チョキ』。
そして、対戦相手の松本が、全くの無意識に出したのは『グー』。
「あちゃー! 白雪さん、一発退場! どんまい!」
「……ううっ、やっぱり。私、最初から負けると思ってたよ……」
ユナがガックリと肩を落とす。
朝霧先生がニヤリと笑い、黒板にユナの名前を書き込んだ。
「よし、実行委員一人目は白雪。 不運の女神は健在だな。さあ、次は白雪とコンビを組む『最強の勝者』を決めるぞ!」
クラスが沸き立つ。
だが、俺の背中には冷たい汗が流れていた。
ユナが「不運な一人目」として決定した。
つまり、俺が次に取るべき行動は、たった一つ。
(……勝ち残る。俺が、最後の一人になる。……けど、そうすればするほど、ユナにさらなる不運が降りかかる。……クソッ、どうすりゃいい!?)
「二回戦! 最初はグー、じゃんけん――!」
俺の右手は、俺の意志とは無関係に、最適解を叩き出し続ける。
チョキ、パー、グー。
次々とクラスメイトが脱落していく。
俺が勝つたびに、教室内で小さな「事故」が起き始めた。
窓際で観戦していた佐藤の筆箱が、なぜか勝手に机から落ちて中身が散らばる。
天井の蛍光灯が、一瞬だけ不気味に明滅する。
そして――。
「……いたっ!」
ユナが、自分の椅子に座り直そうとして、スカートの裾を引っ掛けて転びそうになった。
俺が勝つほどに、ユナの周りの「不運」が、磁石のように引き寄せられていく。
(やめろ……。もう、勝たせないでくれ……!)
だが、俺の能力は、窮地に陥るほど鋭さを増していく。
ついに、残ったのは俺と、あの高橋の二人だけになった。
高橋は、鋭い眼光で俺を射抜く。
「晴山……。お前の手、震えてるぞ。
勝つのがそんなに怖いか?」
高橋は気づいている。俺が勝つことで、ユナがどうなるかを。
朝霧先生が、楽しげにカウントを取る。
「さあ、ラストだ! 勝った方が白雪と地獄の実行委員だ。……行くぞ、最初はグー!!」
俺の脳内コンピュータが、高橋の手を解析する。
高橋が繰り出そうとしているのは、渾身の『チョキ』。
俺が『グー』を出せば、俺の完全勝利だ。
だが、その瞬間。
窓の外で、大きな鳥が「カァ!」と不吉な声で鳴いた。
ユナが、ビクッとして肩を震わせる。
(……このまま俺が勝てば、実行委員としての毎日は、ユナにとってさらなる不運の連続になる。……けど、俺がいなきゃ、誰があいつの不運を肩代わりしてやるんだよ!)
「じゃんけん――ポンッ!!!」
俺が突き出したのは、指を千切れるほどに固く握りしめた**『グー』**だった。
「……勝負あり! 優勝は晴山! 実行委員は、白雪と晴山のコンビに決定だ!」
クラスが拍手と歓声に包まれる。
だが、俺は勝った喜びなんて微塵も感じていなかった。
高橋が、俺の横を通り過ぎる際、耳元で小さく囁いた。
「……覚悟しとけよ、晴山。お前が選んだのは、修羅の道だ」
俺は、不安そうに俺を見つめるユナに歩み寄る。
彼女の足元には、なぜかどこからか転がってきた画鋲が落ちていた。
俺はそれを、誰にも気づかれないように自分の靴の裏で踏み潰した。
「……おい、白雪。運が悪かったな。お前のせいで、俺まで地獄付き合いだ」
「……ごめんね、晴山君。でも、私……晴山君が一緒なら、ちょっとだけ頑張れる気がするよ」
そう言って微笑むユナ。
彼女の笑顔の裏で、俺はこれからの学園祭期間、自分に襲いかかる「代償」と「不運」との、終わりなき戦いを確信していた。
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