第84話 長政の遺志。信長がなぞった『楽市楽座』と、敦賀貿易の夢
ふたたび、長浜に居をおくことを決めた万吉は落ちついたところで、千吉と一緒に徳勝寺に出かけました。
二人は浅井家の墓と、師匠、お袖の墓に手をあわせました。
住職の雄山和尚が茶を振る舞ってくれました。
「申し訳ござらんな。拙僧には利休のような上品な茶は点てられん」
「いえ、いただきます」
「おいしい」
竹阿弥のお茶を彷彿させるような茶だと思いました。
「あの…ご住職はご存じでしょうか?父が織田信長に刃向かったかった理由を…」
「おい…万吉…」
千吉は万吉の言葉を咎めようとしたのですが…
「そうですな。浅井長政公は敦賀を守ろうとしておられたのです」
「敦賀ですか?その時、敦賀は朝倉領です。なぜ、父が…世間で言われているように朝倉家への義理ですか」
「それも少しはあったかもしれません。それよりも何よりも敦賀を守ろうとしたのは民のためだったのです」
「どういうことですか?」
「ご存じかもしれませんが、長政公は農に限界を感じておられた。だから、商業に活路を見出そうとされていた」
「それは秀次様から聞いたことがあります。父の家臣であった宮部継潤から父の教えを授けられ、近江八幡で、それをなされたと。秀次様が近江八幡でなされたことは元は父の政策であったと」
「秀次様…そうですか…思えば、お気の毒な方でした。長政公もそうですが優秀でありすぎました」
「………」
「いっそ、余計な才などない方が長生きできますな」
「敦賀は朝倉家にとっても浅井家にとっても生命線でした。敦賀は古来より外国との貿易で栄えてきた港です。長政公はその貿易によってもたされる富によって人々を富ませようと考えられたのです」
「信長公の楽市楽座も元はといえばそれに近いことを長政公が小谷城城下でしていたのを信長公がなぞったにすぎません。あ…これはいささか、長政公びいきがすぎましたかな」
「秀吉は朝倉義景殿は信長に逆らう気持ちなどなかったのにそれを止めたと」
「それは事実です」
「なぜですか?朝倉義景殿が上洛していれば、織田信長も越前に攻め入ったりはしなかったのでしょう」
「朝倉義景殿が越前を留守にしたらどうなります。越後から上杉の兵が…加賀の一向一揆が越前になだれ込んできます。そうなると越前で平和に暮らしている人々はどうなります」
「………」
「長政公は越前の民のために止められたのです」
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登場人物
浅井万福丸(万吉)
浅井長政の遺児 歴史上では10歳で織田信長に処刑されたとされる
浅井長政
浅井万福丸(万吉)の父
「浅井家の再興など考えずともよい。優しい女を妻に娶り子を生み育て幸せに行きてて天寿を全うせよ」
ということばを残す
お市の方
浅井長政の妻 万福丸が母と慕う存在 北ノ庄城で柴田勝家とともに自害
茶々(淀殿)
万福丸(万吉)の異母妹 天下が平和になり、人々が幸せに暮らせるように願って、秀吉を支えている。雇用や経済効果を狙って、淀城や養源院を強請る。
初
万福丸(万吉)の異母妹 京極高次夫人 小谷城にいる頃から高次とは相思相愛
高次との間に子どもがいないのと、高次の姉・竜子と淀殿が中が悪いのが悩みのタネ
江
万福丸(万吉)の異母妹 佐治与九郎の妻となるが離縁、後に羽柴秀勝と結婚。秀勝は朝鮮で病死。秀勝の死後、完子を生む。茶々(淀殿)が心配して徳川秀忠に嫁がせた。
大政所・仲
豊臣秀吉の母
万福丸(万吉)や江を気に入っていた。
木下弥右衛門に、死なれて困っているところを竹阿弥に助けられる。
竹阿弥
豊臣秀吉の継父
仲が秀吉を流そうとしているのを止める。織田信秀に茶坊主として仕えていたが、秀吉が幼い頃、病気にかかった時の薬代のために茶道具を盗み暇を出される
万福丸(万吉)と一緒に秀次の石塔に彫られている悪逆非道秀次 畜生秀次の文字を削りとる。
千丸(千吉)
阿閉貞征の子ども 家族の愛を知らないまま、小谷城に人質に出されていた。
はじめて抱きしめてくれた浅井長政のために万福丸(万吉)の身代わりになろうとした。浅井長政の死後、万福丸(万吉)に兄のように寄り添ってくれている。茶々の初恋の相手。
小夜
千丸(千吉)の妻
戦災孤児。万福丸(万吉)も千丸(千吉)も同じ年戦災孤児だと思っている。気が強くて、面倒見がいい。
戦をなくしてくれた豊臣秀吉に感謝している。お袖の最後も看取った。
お袖
万福丸(万吉)の妻
元遊女 次の世も万吉に出会いたいと言い残して死亡。
豊臣秀次
豊臣秀吉の甥 関白にはなりたくはなかったが、秀吉の明征伐を止めようと関白の座にとどまる。
謀反の疑いをかけられ、切腹。
豊臣秀次の子どもたち
万福丸(万吉)を薬師様、薬師様と慕ってくれた。三条河原で処刑された。
豊臣秀吉
かって信長に逆らってまで万福丸(万吉)を助けてくれた。
秀頼の誕生により変わってしまった。
片桐且元(助作)
かって万福丸(万吉)の傅役だった。何かと万福丸(万吉)のことを気づかってくれている。
浅井長政にいろいろと教えてもらって感謝している
徳川家康
万福丸(万吉)と伊吹山で薬草を摘みに行き楽しいひとときをすごす。
「築山さまと信康様のために信長と一戦しようと思わなかったのですか」
ということばをつきつけられる。
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