第51話 長浜へ行こう

万福丸様葉は薄い布にドロドロに煮詰め、ほぼ液状になったものを布に浸しては口に詰め込んでは無理に嚥下させていく。それでもこぼれたものは他の布で丁寧に拭っていく。


そういえば、この方は優れた薬師と聞いた。


「万福丸様は前々から茶々様を引き取りたいとおっしゃていたと聞いています。私もその方がよいと思います」

「何をいうのです。治長。そのようなこと、殿下が許すはずがありません」 

「そうですね。私もそう思います。でも、もういいではありませんか」

「茶々は父上に似ています。容姿は義母上に似ていますが気性は父に似ています」

「そうでしょうか?私どもが覚えている浅井長政様は穏やかで優しい方でした。むしろ、気性の激しい茶々様は織田信長公に似ておられるのでは…」

「ええ、私が覚えている父もそのような方でした。だから、これは人伝に聞いた父の話なのですが、父は薬師になりたかったそうなのですが、ある人は父があまりにも優秀過ぎたゆえに、おじい様・浅井久政公に不満を持つ浅井の家臣らに浅井家の当主に担ぎ上げられたのだと言いました。…それでも、父は一度は浅井の家を私の母のために捨てようとしたそうです」

「万福丸様の母君ですか?」

「意外ですか?」

「ええ、浅井長政様は一人の愛妾もおかず一途にお方様、茶々様たちの母君を愛されていたと」

「父と義母上は本当に愛し合っておられた。だから、茶々、初、江が生まれたのです。義母上は私もわが子のように可愛がって下さいました。私が母の事を知ったのも最近なのです。それでも、結局、薬師になる夢も、母との恋も諦め、父は浅井の家を継ぎ、武将として生き、その生涯を終えました」

「茶々も優秀すぎるのですよ。だから、殿下も茶々に執着するのです。美しいだけの女なら、殿下の側に何人もいます。それ故に殿下も茶々を、手放せないと言っていました」

「それなら、なおさら、万福丸様のもとには、行けないでしょう」

「だから、もういいではありませんか。殿下によって天下は統一されました。誰が豊臣に逆らうというのです。鶴松が生まれるまでは殿下の甥の秀次様が後継と言われていたというではありませんか。殿下はもうお年です。殿下に万一のことがあっても秀次様にお任せすればよろしいではありませんか。茶々が殿下に侍らずともよいではありませんか」


「あ…異母兄上…」

「茶々…気がついたか」

「私…異母兄上のように市井で生きてみようかしら」

「うん、うん、それがいい」

「そ、そんな…茶々様…」

「母上、茶々様の幸せを考えるなら、その方がいいと思います。天下人の愛妾ではなく、ごく普通に暮らして…そして、小谷城にいた頃のような笑顔を取り戻していただきたい」

「茶々、それなら、長浜まで旅をできるだけの体力をつけなければな。さ、食べろ」

「ええ、長浜はどのようなところですの」

「よいところだよ。父上が治めていた頃は今浜と言ったそうだが、殿下が長浜と改められた。長浜城には小谷城の資材も使われているから、少し、その面影がある。父上やおじい様、ひいおじい様の墓のある徳勝寺もある」

「なら、父上のお墓に参りたいといえば殿下は許してくださるわ。父上の供養のための寺も建立してくださると言ってらしたもの」

「そうだ。そうしよう。その後は、しばらく私の元で養生するといえばよい」

「仕方ありませんね。茶々様、私もお供いたします」

「ありがとう。大蔵卿。治長も」


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