この作品を読んだ時、なんて豊かな感受性で、なんて鮮やかな色彩なのだろうと思いました。
文字だけなのに、眼前に広がる景色は読み手の想像力をこれでもかと引き出してくれます。
それは風景だけの話ではありません。
そこに住まう人々の清らかな心、世界の真実を知るキヌの業務に徹する行動。
世界はなんの抵抗も受けずに美しく循環するようで、されど機人であるキヌの、理屈(プログラム)では説明のつかない反応と変化は、次第に目が離せなくなります。
そこには時に危うさのようなものも感じ得ながら、読み進めるほどに、不思議と彼女に手を貸したくなるようなそんな感情を呼び起こされました。
『管理』という二文字によって精緻なまでに整えられた世界の中で、人の手が織りなすモノの美しさを再確認するような、深い余韻を残す一作です。
近未来の空想科学小説にしては、余りにも
身近な、郷愁すら感じられる作品。
人々の間で『旅立ち』なる儀式がトレンドに
なり、又それを クニ が管理許可する
今からそう遠くはないであろう未来の話。
機人と呼ばれるAI搭載アンドロイドが話の
主人公である。
名を キヌ という。
完全なる管理統制とバース・コントロールの
社会に於いて、恰も宗教の如く行われる
『旅立ち』の儀式。キヌは今までに三名の
女性の送りをコーディネートしてきたが。
…ここまで書くと何某かの予測をする
読者もいるかも知れないが、多分それは
乗っけから裏切られる。
これは自由なエンディングの話でも、国の
過剰統括の話でもない。勿論、機械との
共存でもなければ、機械と生身どちらかに
軍配が上がる話でもない。
只、静謐な空気の中で、様々なモノが揺らぎ
光りながら存在して、闇の中へと還って更に
それが繰り返されるのだろうという
事実 の連なり。
古き田舎の風景や草花、蝶などの自然、そして
様々な素材や色、手仕事などの御技。
それらが先端技術の硬質の中に対照的な
柔らかさをそそぐ。
深い感慨に浸る。
それは間違いない。流石の作者の手腕は
近未来の無機質な静謐さをも描き出す。
私たちは一体、何をして来たのか。そして
何をしようとしているのか。
何処へ行くのか。
読まぬのは余りにも愚かしく勿体ない、と
心底そう思う。