第7章「最後の春」 第1話「体温が下がる」

春なのに、私はよく寒がるようになった。


窓から入る風は柔らかいのに、肌の奥だけが冷たい。


病院の待合室で、私は自分の手を握った。


骨が浮いてる。


前はこんなに細くなかった。


気づかないふりをしてたけど、体はちゃんと終わりに向かっていた。


診察室で先生が言った。


「……数値が、少し落ちてます」


その言葉が、耳に刺さる。


私は笑った。


「そうですか」


先生は優しい顔をした。


「無理はしないでくださいね」


無理。


私は、無理をしてでも生きたいのに。


でも、言えなかった。






家に帰ると、悠真からメッセージが来ていた。


『今日どう?』


私はスマホを握って、少し迷った。


本当は言いたい。


怖い。


苦しい。


でも言ったら、悠真の心が壊れそうで。


私は短く返した。


『だいじょうぶ』


嘘。


でも、嘘じゃない。


だって私は、悠真がいるだけで、少しだけ大丈夫になるから。




夜、悠真が来た。


玄関を開けた瞬間、私は気づいた。


彼は、私の顔色を見ただけで分かってしまう。


「……今日、病院だった?」


「うん」


「……どうだった」


私は笑って、軽く言った。


「ちょっと疲れただけ」


悠真は何も言わなかった。


ただ、私の手を握った。


その手が熱かった。


私の冷たい指が、彼の熱で溶けていくみたいだった。

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