第2話消えない文字
雪は、すぐに溶ける。
でも文字は、溶けない。
放課後の校内掲示板の前には、まだ人だかりができていた。
「佐伯ってさ、前から怪しかったらしいよ」
「裏切り者って書かれてたしな」
その単語に、胸が小さく縮む。
――裏切り者。
私は一度だけ、その言葉を見たことがある。
先週の夜。
図書室のパソコンで調べ物をしていたとき、
校内掲示板に、不自然な投稿が表示された。
『三年A組のエースは裏切り者』
最初は悪意の悪戯だと思った。
けれど直後、匿名で送られてきたスクリーンショットを思い出した。
「不正入学の証拠、あるらしい」
その一文に、私は指を止めた。
正義感だった。
多分。
“もし本当なら、隠すべきじゃない”
それだけの軽い思いで、
私はその画像を、匿名アカウントに共有した。
「みんなが知るべきだと思う」と、添えて。
今も、その操作の感触を覚えている。
送信ボタンの、わずかなクリック音。
たったそれだけ。
それで世界が動くなんて、思わなかった。
⸻
「柊木さん」
振り返ると、三島葵が立っていた。
「佐伯先輩のロッカー、空にされちゃうらしいです」
私は小さく頷く。
廊下の窓の外は、まだ白い。
でもその白さが、少しだけ重く感じる。
もしあの投稿が――
いや。
違う。
あれは正しい行動だった。
悪いのは、不正をした人。
私は何も間違っていない。
そう思う自分の中に、
小さな違和感が残る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます