本作は2000文字以内で描くお題企画に寄せられたものです
決められた字数のなかで見事に描かれたことにまず感服いたしました
物語は主人公が祖母の遺言から広島の町へ訪れるところから始まります
路面電車、江波山、おさん狐、広島の町、広島の言葉……
「路面電車」のお題そってそれらは登場しますが、すごく物語のストーリーラインにすっと自然に盛り込まれていて、まるで広島の町を訪れ、路面電車に乗っているような錯覚すら覚えます
導かれた先で見たものは?
切なく、もの悲しく、余韻を引くラストに主人公の心情は描かれない
それは読者がそれぞれに想像すればいいということでしょう
そこも含めて2000文字の少ない文字数で描かれる幻想小説として、素晴らしいものを読ませていただきました
春の日の広島。
〝私の代わりに江波山の桜を見に行ってくれんか〟
路面電車に揺られながら私は祖母の残した奇妙な言葉を辿ります。
車中であった少女に導かれ、江波の山の道外れの空き地の桜にたどり着いて────
そして私は、うら若き祖母の在りし日の恋の一区切りに、立ち会いました。
かつて、恋人だった二人にあった心の行き違い。
時が経っても、様々な想いは消えない。
だからいま、春の微睡みのような時のなかで、そっと後悔と許容を交換するのでしょう。
狐の悪戯という怪異に阻まれ、実らなかった恋。
その成り行きと後片付けを辿る幻想譚。
読み終えた後、ふくよかな余韻にいつまでもやわらかく包まれる。
そんな物語です。
どうぞご鑑賞をお願いします。和みますよ。
「私の代わりに、江波山の桜を見に行ってくれんか」
物語は、主人公の祖母の、こんな言葉から始まります。
広島市江波山公園の桜は、それはそれは見事なものでございますが、
この江波という地には、それはそれは少し困ったお狐様がいらっしゃったようでして……。
路面電車に乗る主人公に、声をかけてきた、地元の女学生。
その黒い瞳に吸い込まれた時に、主人公にはある景色が浮かぶのでした。
狐によって引き裂かれた恋。
しかし、恋の終わりとはなんだろう?
恋する相手を覚えている限り、それは死をも越えても続くのだろうか?
それともその景色は、ちょっとした狐からのお詫びだったのだろうか?
これまた春が待ち遠しくなる、少し切なく、温かい物語にございます。
ご一読を。