春は出会いの季節、と言われます。
けれどこの物語が描くのは、積み上げてきた居場所が足元からほどけていくような、
心許ない思いを抱えた少女の、透明な三月の時間です。
まだ固い桜の蕾。
揺れ続ける路面電車の振動。
声をかけられない距離。
小さな勇気で送る一通のSMS。
無機質な文字列のはずなのに、そこにはたしかな体温が宿る。
そして ――。
見える景色は変わらないのに、
ああ、春とはこういうことなのだ、と
静かに、けれどたしかに胸を打たれました。
とにかく、うつくしい。
読む人それぞれの胸の奥に、まだ固いままの蕾があるのなら。
きっとこの物語が、そっと内側から色づかせてくれるはずです。