嘘つき鏡と白昼夢

空月 冬叶

第1話 私もあんな風になれたら。


金木犀の香りが漂う秋...

枯葉の擦れる音。

燃えるように染まる山。


ここは山奥にある私立の学校...かつては不良が多い男子高校だったが廃校になり、新しく共学で私立の中高一貫校になった。歴史も浅く、知名度も低いので生徒の数は少ない。

中学1年生から高校3年生合わせても100人いるかどうか。だがその分、先輩後輩の壁があまりなく、階が違うだけで同じ校舎で過ごす為、仲良くなることも多かった。


芸術的で綺麗な校舎の裏には今も旧校舎がある。

理科室、音楽室、家庭科室、美術室はそのまま使い、部活の部室としても使用されていた。


――――――――――――――――


『心晴(こはる)!起きなさい!遅刻するわよ!』

「んー、」

目に入る陽の光が痛い。今日も学校...憂鬱だ。

朝食を食べて支度をした。いつもの制服に袖を通し、長い髪を束ねて学校に向かう。


心晴には一つだけ学校にいく気力を与えてくれる存在があった。


それは3つ年上の先輩に会えること。名前は絢也(けんや)。

色白の肌、少し赤く染まった頬、柔らかい声。ねぐせの付いたままの髪も、先輩なのに可愛いと思うほどだった。

すれ違えば柔軟剤のいい香りがしてたまに鼻歌を歌っている。いつも何を考えているか分からないけれど、そんな所も魅力的だった。


初めて出会ったのは心晴が中学1年生の時。体育祭の練習をしていた。

中学1年生から高校3年生が縦割り班になって話し合いやくじ引きでそれぞれ出る種目を決める。

心晴は卓球だった。でも心晴は卓球の経験がなく、とても下手だった。その時、高校1年生だった絢也先輩は別の班なのにも関わらず、優しく教えてくれた。先輩は卓球部で教え方もとても上手だった。心晴は一瞬で絢也先輩に恋をした。


中学3年生になった今も変わらず絢也先輩が好きだ。付き合いたいとは思っていない。もちろんそうなったら嬉しいが、見ているだけで、学校で会えるだけでも十分なのだ。


心晴は軽音部でボーカル担当。放課後誰もいない旧校舎の部室で歌の練習をしていた。すると、どこからか声がしてきた。よく聞くと絢也先輩ともう1人、女性の声。廊下を覗いて心晴は目を疑った。絢也先輩は同じ学年の結衣(ゆい)先輩と抱き合っていた。結衣先輩は成績優勝で才色兼備。栗色の髪は艶やかで誰もが憧れる学校のマドンナ。

噂は聞いていた。絢也先輩には付き合っている人がいると。だがそれでも良いと思っていた。先輩と会えるだけで満足していたから。でもいざ現実を突きつけられると辛い。涙も出ない。


先輩たちが立ち去ってから、心晴は廊下に飾ってある鏡の前に立った。鏡の自分に手を伸ばした。『私も...憧れの人と付き合いたいよ。見てるだけで満足なんて...嘘だよ。私もあんな風になれたら...憧れの人と付き合える世界に行きたいよ』鏡に指先が触れた。すると水面のように鏡に波紋が広がった。

もう一度触れると心晴は吸い込まれるように鏡のなかに引きずり込まれて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る