唯一助かった被害者の証言


その独白は、ガタガタと揺れる体が、恐怖で見開かれた目がやっと警察を見た時から、ポツリ、ポツリと始まった。


「私は、あの日、神様を見たんです」


 私の独白はそんな言葉から始まった。


 私が神様を見た日。

 それはとてもよく晴れた、星あかりしか見えないような夜でした。


 私は、塾の帰りでした。肩にのしかかるズンッと重たい通学カバンに、ジャラジャラと着けたストラップやぬいぐるみが私が歩く度に音がしていたのを覚えています。


 その日は、たまたまお母さんがお迎えができない日でした。だから、私は仕方なく一人で帰ってました。街灯の光がチカチカとしてて、どこか普通じゃない感じがして、私はその恐怖を紛らわすみたいにイヤホンをつけて音楽を流しました。


 怖さを紛らわすみたいに鼻歌を歌いながら歩いていたんです。そしたら、いきなり腕を引っ張られて……。


 そこからは、よく、覚えていないんです。いきなり、髭面の気持ちの悪い男から両手足を押さえつけられて、下着を、無理矢理、脱がされて、それを口の中に入れこまれたんです。


 それから、えっと、


 その時の事を思い出してしまったのか、私の体はガクガクと震え始めてしまった。警察の人が、1度休憩するかと尋ねてきました。でも、私は最後まで言わないといけないと、何故か、全てが無くなってしまう気がしたんです。


 だから、警察の人からの好意を首を振って拒否しました。


 私は、震える体を落ち着けるように1度深く息を吸ってから、また、あの日の夜を語りはじめました。えっと、どこまで話したか、あ、そう、男が私の口にパンツを押し込んだんです。


 それで、私、もう、ダメだと思ったんです。ニヤニヤと笑う髭面の男の顔が今でもはっきりと覚えてます。あの人の生臭い口の匂いに黄ばんだ歯、そして、タバコ臭い服の香りまで。


 それで、私、心の中で、ずっと助けを求めたんです。多分、どこかの路地裏だったのか、表通りを歩く人と目が合いました。でも、助けてくれなかったんです。


 声が出せないなりに助けてって、目で訴えたんです。なのに、その人、フイッとまるで、汚いものでも見るみたいに目を背けて、足早に私から離れていきました。


 あぁ、もう、ダメだって、思いました。


……でも、その時、いきなり、目の前に居た男が消えたんです。いえ、正確には消えた、というより、蹴飛ばされたんです。私が呆然としていたら、私を襲ってた男を別の人、いや、神様が倒してくれたんです。


 今でも、覚えています。神様の長い足が、私に乗っていたモノを蹴飛ばして、冷めた目で見下ろしていたのを。


 そして、ビッという音がして、神様は一瞬で私を襲った男の人をガムテープで拘束して、トランクに押し込んでました。


 私はその一連の流れを何が起こったかよく分からずに見てました。でも、ひとつだけわかった事がありました。それは、神様が私を助けてくれた、ということでした。


 神様は一連の動作が終わって、やっと私の方を見てくれました。それは、私を通して、どこかを見ているような目でした。でも、今思えば、何故か歓喜の色が浮かんでいたように思うんです。


 神様は、私の口に押し込まれていた下着を取り出すと、私の目元をソッとハンカチで抑えてくれました。多分、泣いていたんだと、思います。


 神様は感情の乗らない笑顔を浮かべたんです。確かに、笑っているのに、何故か、私は感情が乗ってないって思ったんです。


「もう、大丈夫だよ。警察も呼んだからね」


 神様は、そういうと、髭面の男をトランクに載せたままどこかへと行ってしまいました。私の手元に残されたのは神様が助けてくれたという事実と綺麗な白いハンカチのみです。


 私は未だに、神様の感情の乗らない笑みを覚えてます。多分、一生忘れないと思います。


 「これが、私の体験したことの全てです。これをどう言うふうに本にするのか楽しみにしてます。――神様!」


 私はにこりと笑って、アクリルガラスの向こうにいる神様へとお辞儀をした。

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