刑務官の証言
カツン…カツン…と緊張からか、怒りからか、私の足音は一定になる。後ろからなんの足音もしない加害者がついてくる。加害者は穏和に笑みを浮かべたまま私についてくる。
これから死ぬと言うのに、気持ちの悪いやつだ。
本日はこの加害者の死刑執行日だ。温かな太陽の光が柔らかく降り注ぐ今日はピクニックや日向ぼっこなどが向いているのだろう。本当は。しかし、私はこの殺人者の死刑を執行する刑務官になってしまったのだ。
この殺人者は直接手を下さなかったものを含めて計28人もの人間を男女関係なく殺しているのだ。今回、逮捕できたのだって、この殺人者の美学がきっかけなのだ。
重厚な扉が見えてきて、やっと、ついたのかと安堵の息を着く。腰から鍵を取り出し、ガチャリと扉の鍵を開ける。そのまま扉を押し開き、加害者を押し込む。
その部屋は反対側にもう一つ扉がついていて、木の机と椅子がポツンと一組置いてある。白い色の壁に汚れ一つない。
事前に聞いていた最後の晩餐を加害者の前へと出す。ガチャンと食器同士のぶつかる音が色のないこの部屋へとこだまする。ごキュっと変なタイミングで唾を飲み込んでしまった。
ジッと加害者が最後の晩餐である寿司を食べ終わるのを観察する。途中、無線で処刑時にどの宗教の者を呼ぶか聞かれたのでそのまま加害者に尋ねる。
この加害者と会話をするのが初めてなせいか、嫌に手に汗をかく。白い手袋をしている為に嫌な熱気が手袋に籠もっている。
「おい、お前の信じている宗教はどれだ」
私がそう尋ねれば、加害者はフワリと先程と変わらない穏和な笑みを浮かべて首を降る。
「私は、無宗教なのです」
きれいな笑みでそう言うソイツは、まるで、神を信じる敬虔な信徒の様であった。しかし、私は気づいてしまった。きれいな笑みで笑うソイツの目の奥はなんの感情を抱いていなかった。それどころか、どこか馬鹿にしたようにコチラを見つめているのだ。
それを見た瞬間、私の心臓はドクリと跳ねた。背筋を冷たい汗が伝う。ハッ、ハッと息が詰まるような、首を絞められている様な、息苦しさが私を襲う。
お互いに、ジッと見つめ合っていれば、加害者は私に興味を無くしたかのように不意に目線を外された。私は未だドクドクと脈打ついつもより早い鼓動を落ち着かせようと小さく深呼吸をするが、なかなか収まらない。
やっと鼓動がいつも通りを刻むようになった時、ジジッと耳元でノイズが聴こえたかと思えば、定時刻になったと同僚が教えてくれた。それに了解と返し、加害者を立たせる。
「立て」
加害者は私の命令にも未だ笑みを浮かべたままだ。今から死ぬはずのコイツは死ぬ恐怖を一切感じさせない。それどころか、頬を赤く染め喜びからか笑みを浮かべている。先ほどまでの無機質な笑みではなく、心からの喜色の笑みだ。
私はその笑みに嫌悪を示さなければならなかったのだ。示さなければならなかったのに…私は、その笑みに確かに見惚れてしまったのだ。
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