第19話 穢と帰還
ザグの死体 ゴブリン シャーマン
元人間だったが、ゴブリンの細胞を組み込まれてゴブリン化した死体
鑑定眼を使って驚愕した。
「サーシャ、メリサ、あの死体はそのまま持って帰ろう」
「そうですね。喋っていましたし、特殊な個体のようです。ギルドにも報告するのがいいと思います」
「うう……助けて」
そこでゴブリンに縛り付けられた女の人達のことを思い出す。
跳躍しながらゴブリン達は皆殺しにしたが、縄は解いていなかったため、死体と添い寝しているはめになっている。
戦闘中だったため、注視していなかったが、皆裸体を惜しげもなく露出している。
惜しげもなくというのは表現的にどうかとも思うが、手足を縛られているため隠すこともできない。
どの女の人も下半身が白い液と血が入り混じったようなひどい有様で、土が付着している。
きっとゴブリン達に何度も何度も子作りを強制させらたのだろう。
サーシャとメリサが急いで拘束を解いてまわっている。
俺は触れないほうがいいだろう。
女の人達はサーシャ達に任せてゴブリンの住処を歩いて回る。
人骨の山、破れた衣服、革の装備品などが所々に積み重ねられている。
銀貨、銅貨も穴に放り込まれていた。
使い道もないだろうに。
さらに進むと絶壁の岩肌が見え、そこに小さな洞窟があることに気が付いた。
魔物はいないようだが、何かいる気配がする。
危険察知は相手に悪意が無くても、生き物がいることを知ることができる。
洞窟の中は入り口からの日の光が差し込む程度だが、鑑定眼のおかげで暗闇でもよく見えることができた。
「気配があったはずだが、行き止まりか?」
落盤があったように岩が崩れてきており、奥に進めなくなっているかと一瞬思ったが、ガサガサと奥で音がした。
「誰かいるのか?」
返事は無いが何かがいるのは間違いない。
落盤の岩かと思ったが、どうやらゴブリンが岩を置いているのかもしれない。
一つ一つの岩がかなり大きい。
100kgほどありそうな岩を両手で後ろに放り投げる。
こうしてみると自分がいかに力を付けたのかわかる。
岩をどけていくと、その向こうに空間があることがわかった。
「何かを隠していたのか、それとも」
その空間に足を踏み入れると、獣のような異臭が鼻をついた。
と同時に俺の目に人の姿が目に入る。
リシュル 23歳 人間 村人Lv3
D級冒険者
「えっと、助けにきました。大丈夫ですか」
「………」
その女性は破れた衣服で裸体を覆い、ガクガクと震えていた。
「俺は何もしないから、安心して」
これ以上近づくのは逆効果だと思い、振り返ってゆっくりと退路へ向かった。
リシェルという人もゆっくりと立ち上がり、俺についてくるのがわかる。
恐らくギルドで依頼を受けた冒険者の一人だろう。
ゴブリンはこん棒だとか服の切れ端などを装備していたが、中には冒険者から奪ったであろう武具があったので回収しておく。
中でもゴブリンシャーマンの持っていたものが今後使えそうだった。
呪石の杖 C
黒い魔石が埋め込まれた短杖。 表面には古い呪術の紋様が刻まれている。
魔法威力+15%
魔力消費小軽減軽減
魔力吸収の首飾り C
魔石を革紐に通した首飾り。
魔力回復速度小上昇
どちらも禍々しい見た目だが魔法使いがいない現状では首飾りをサーシャに装備させておくくらいだろうか。
装備品の鑑定をしていると俺の元へ一直線に向かってくる気配があった。
リンクスだ。
1.5mほどの巨体がジャンプして飛びかかってくる。
「うっ」
胸に飛び込んできたリンクスを両手で受け止めると、ぺろぺろと顔を舐めまわしてくる。
「待っててくれたのか、ありがとうな」
頭を撫でまわすとグルグルと喉を鳴らして目を細めた。
できるならこのまま持ち帰りたいが、借りている以上は返さないといけない。
非常に残念だ。
一番重症なのは洞窟に囚われていた冒険者のようなので、リンクスに乗せることにした。
そして俺達は救出した女達を引き連れ、アーリアの街へと戻ることにした。
「おい!女達が戻ってきたぞ!」
街に近づくと男達が勢いよく連れ合いの女の元へと駆け寄り、涙を流して抱き着いた。
だが、心なしかぎこちない。
男に迎えられた女達はそのまま俺達の元を離れていったが、連れ合いがいない者達は、目に見えてがっかりしていた。
恐らく、ゴブリンの襲撃で身内を亡くしたのだろう。
彼女達はこれからどのようにして生きていくのか妄想していたところで、遠くから叫び声が聞こえた。
「おいおい、俺達は女達の救出まで依頼した覚えはないぞ。金は払わないからな」
はぁっとため息が思わずでてしまったが、声を荒げているのは長と長の息子だった。
「……だいたいゴブリンと子作りをした女なんてどうしろというんだ」
長の息子がボソッとつぶやいた声が聞こえた女はその場で泣き崩れてしまった。
「おい……」
あまりに腹が立ったので言い返そうと思った時、俺よりも早く前に出た者がいた。
サーシャだ。
サーシャはそのまま息子の頬を平手打ちした。
かなり加減したのだろう。
平手打ちでもサーシャの力だと顔面が無くなっている。
「そんな言い方やめてください!彼女達は生きて帰ってこれただけで……価値があるんですよ」
「うっ……いてーな。サーシャ、ただで済むと思うなよ」
その場で倒れこんだ息子はすぐに立ち上がり、サーシャに迫ろうとした。
サーシャは、まずいと思ったのか身を竦めてしまった。
「おっと、俺のサーシャに手を出すなよ」
俺は向かって来ようとした息子の前に立ちはだかって息子の行く手を阻む。
「また、お前か……」
もう殺すしかないかもしれないな、と思った瞬間だった。
「女達が攫われたのはお前たちのせいだ」
言葉の方向を見ると、街を出る前に話しかけた男だった。
「冒険者の報酬をケチって防衛に失敗にしたのはお前たちのせいだ」
「街から出ていけ」
男達は声を大きくしていき、その声を聞いた他の人達も集まり始めた。
「くそ、何なんだ、お前たち。俺がいなければこの街はもう終わりだぞ」
長が叫んだが、罵声は止まらなかった。
「もう、お前たちの言うことは聞きたくない。税金だとか言って金を納めてきたのに結局お前たちの懐に入っただけじゃないか」
一歩前に出てきたのは、サーシャの家を襲撃してきたカルロスだった。
「……違う、色々使うことが多いんだ」
「サーシャ、ミスターさん、この間はすまなかった。俺はあの後色々考えたんだが、こんな奴のいいなりに街を任せていてもいいことは無いとわかったんだ。サーシャが自分で力をつけて街の周りのワーウルフを倒してくれたように、俺も自分で強くなって街を守りたい」
「お前に何ができるんだ。くそっやめろ」
長と長の息子はカルロスと何人かの男に取り押さえられた。
「サーシャ、こいつらを冒険者ギルドに突き出すよ。虚偽の依頼をして冒険者を亡くしてしまったんだ。落とし前をつけてもらう」
「はなせ!俺は何も悪くない!」
もともと力も強そうでないこいつらがどうして長をやってたのか不思議なほど力がない。
レベルも1だし。
「まあ、奴隷落ちで罪を償うことになるでしょうね」
メリサの冷たい一言が止めとなって長と息子はがっくりとうなだれてしまった。
「ミスターさん、以前ひどい目に合わせた俺達のために再び剣を振るってくれてありがとう。時間はかかるかもしれないが償いはさせてくれ」
「いや……俺は特にいらないんだが」
「それでしたら、帰ってくることができたこの人達を、独り立ちできるように最善を尽くしてもらうということではどうでしょうか。彼女達はこれから一人で生きていくにはとても厳しいと思いますので。ミスター様いかがでしょうか」
「うん、是非それで」
他力本願。
メリサのアイデアに全力賛成。
「私達に有利すぎる気がするのですが、それでよいのでしょうか……」
街の外壁が復旧されるまでは危険なため、しばらく街に滞在することにした。
俺達に何ができるかわからないが新しい門出を選択した街の人たちに協力することもあるだろう。
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