またいつか、また会えたなら、
@Sahara_Tiduru
またいつか、〜岸本蒼夜の物語〜
第1話 またいつか、〜岸本蒼夜の物語ー
ザザザ…
磯の匂い。これを肺いっぱいに吸って喜ぶ大人たちの意味が分からない。魚の生臭さとか、貝の磯臭さとか、俺が子供だからだっとか言うけど、わかんねーもんはわかんねーし、分かりたくもない。大人になったら理解できるものはたくさんあるだろう。知ることもたくさんあるだろう。でも、子供の俺だから知れることもあるんだよ。それが、俺の人生できっと1番大切なものだったんだよ。
2019年。世界中に現れるコロナ感染者。学校に1人現れると休校、それを繰り返す世の中だ。高校1年生という立場からしたら、早く休みになって欲しいものだが、と思うのは岸本蒼夜に限った話じゃないだろう。とは言え、蒼夜には一つ複雑な
思いもあった。
「マスクは、二重にして、人とはできる限り喋らないのよ!アルコールは!もったの!?」
金切り声のように高い声でそう叫ぶのは蒼夜の母蒼陽だ。
「わーってるって。持ったよ。ちこくするからもう行くかんな。」
まだ蒼夜の背後から蒼陽の叫び声が聞こえるが、逃げるように家を出る。
そう、複雑な思いとはこの母、蒼陽の事だった。健康、世間体、世論に敏感かつ過激なとこを持つ陽蒼は蒼夜にとっては憂鬱な存在。休校になる度、感染者は何年の誰か、蒼夜と接触してないか、体調は大丈夫か、繰り返し繰り返し蒼夜に確認をするものだから、学校が休みになるなんてのもいいことだけじゃないのだ。
2019年7月13日。そんな蒼夜の思いとは裏腹に感染者発生。休校になるも感染者は増加し続け、1ヶ月の休校が決まった。
「あぁ、もう!ほんとに嫌だわ!どうせ休校にするならさっさとしてくれれば良かったのに!これだから都会は融通が聞かないのよ!」
ヒスを起こす蒼陽は荷物をスーツケースにつめていた。
(いや、そもそも、都会に住むの希望したの母さんじゃないか。父さんを言いくるめてさぁ。)
そんな思いを秘めながら口に出せばめんどくさいことになると蒼夜は黙って荷物を詰める。こんなご時世に旅行に行けば世間体はかなり悪いが、コロナから逃げるためにド田舎の小さい島に行くのだと言い張る蒼陽の言いなりになっているのだ。
陽性確認に全身消毒、一定期間の隔離を済まし、東のまた東にある小さい島、瑠璃唐島に上陸した。母さんの母方の祖母がつまり俺にとってのひいばあちゃんが住んでいた家があるらしい。そんな昔の家と思ったものだが、想像よりも新しく綺麗なものだった。なんでも親戚のひとりが最近まで住んでいたらしく、リフォームしたばかりとのことで。その親戚も今は老人ホームにいるから自由に使える。
母さんは人が少ないだの、感染者がまだ出てないだの、嬉しそうにしてるが、ただのド田舎だ。何もすることない。てか、俺たちが来たことによって感染者広まったら元も子もねぇじゃんって話。
家にいてもやることはないし、母さんからあれやれこれやれ言われるだけだから外に逃げ出した。夏らしさを感じる青く高い空から指す日が暑さを増させる。特に考えずまっすぐ歩くと海にたどり着く。島なだけあって海とかビーチは綺麗だけど、まぁすぐにでも飽きるだろう。
海につけた足の冷たさと上半身の暑さでどうにかなりそうだ。これならアイスでも持ってくれば良かった。
「…君学生だよね?学校は?」
背後から急に話しかけられ、驚きのあまり声が出なかった。振り向くと同い年くらいだろうか、胸くらいまで伸びたストレートヘアーが印象的な女の子が立っていた。
「……君こそ。」
回らない頭をフル回転させて出た言葉がこれかと我ながら失望する。
「俺は休校になったから親戚の家来ただけだよ。それで君は?」
感染者の出ない島の学校が休みになることはないだろう。
「えー?うーん。秘密、かな!」
…なんだこの子は。
その日は、お互い時間は余るほどあるものだから、日が暮れるまでなんだかんだ喋ってしまった。彼女の名前は礼里 彩波、瑠璃唐島唯一の高校の1年。理由は知らないけど学校には行っていない。そしてとびきりの
「美人。」
「え?なんか言った?」
「いや、何も。」
あの日から毎日海で彩波と話して過ごしている。やることがなかった俺にはいい話し相手だった。
「明日はさぁ、あっちの山の方行かない?」
「山?別にいいけど。」
「私、海って本当は好きじゃないんだよねー。」
ここ数日約束した訳でもなく海で会うものだから、てっきり海が好きなのかと。
東京に住んでる身からしたらこんなに綺麗な海嫌いな理由なんてあるのか、と思ってしまう。
「何が嫌いなの?磯の匂いとか?」
「いや、どっちかと言うと好きかなぁ。嫌いなの?磯の匂い。」
大っ嫌いだよ。何がいいのかも分からない。そんな本音をつぐみながらも、
「まさか。俺も好き…だよ。えっと、嫌いな人って多いじゃん?」
好きって言葉に躊躇うなんて子供らしすぎる。
でも、毎日毎日、日が暮れるまで喋り続けた。白い肌。赤い唇。黒い髪。全てに目が奪われた。
好き。そんなありふれた言葉がどうしようもなく似合う感情に溢れていた。
「学校8月19日からですって。16日の夕方に出ましょう。そしたら17の昼には東京に着くわ。」
「え?あ、16ね。じゃあ、」
スマホのカレンダーアプリを開く。今日の日付は7月17日。
「ちょうどあと1ヶ月か。」
彩波のことが好き。それでも、あと1ヶ月。限りある時間を無駄にしたくなかった。この思いを伝えてはいけない。この関係を変てはいけない。
彩波と過ごせる時間はあと30日。
思い出を沢山残すことにした。東京帰ってからも忘れないように。ホントは連絡先とか交換したかったけれど、彩波はスマホを持ってない。島だから東京とかよりも普及が遅いの!っと声を上げてたのを思い出す。
スマホを構え声に出す
「ねぇ。」
「ん?あ、ちょっと!」
声に反応し振り向いた彩波が手を伸ばして辞めるようジェスチャーする。
「あ。わりぃ。写真嫌いだった?」
「え、あーなんて言うか、写真映り悪いんだよね。だから、しっかり記憶に残るのが写真の私なの嫌。」
少し恥じらいながら言う姿にこちらまで恥ずくなる。
「そっか。…あ、俺島出るの16日の夕方になった。8月の。」
その言葉に彩波は少しの間目を見開く。
「8月16日って、そっか。1ヶ月あるんだ。なら、楽しまなきゃね。」
そうやってまた色んな話を始める。
「じゃあまたあした。」
今まで明日も会うのはわかってたし、時間になったら適当に帰ってたけど、あと少しって考えると惜しくて またあした なんて言ってみたりする。
「…あ、うん!また明日!」
唐突だったから少し反応は鈍かったけど嬉しそうに彩波も返してくれた。
あと29日明日は何話そう。
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