2-2
その後のゲームはまさにシーソーゲームだった。
「apple」「bridge」「culture」「miserable」……
単語の難度こそじりじり上がっていったが、どちらも一度もミスをしない。アタッカーがカードを提示し、ディフェンダーが答えることを繰り返す。しかし、中央のポットだけが、少しずつ、しかし確実に膨れ上がっていく。
「……これ、先に一回でも取った方が、がっつり流れ持ってくやつだな」
観客も固唾を飲んで見守っている。そして迎えたターン13。
ターン13:開始
アーサー:16
蓮:14
ポット:50
ターン1の勝利の分だけアーサーのチップが多い。
> “ターン13。レッドサイド、ドロー完了。レッドサイド、クエスチョン”
アーサーの攻撃だ。
「さて……、と。城島君、そろそろ決着をつけようか?」
「騎士さん、こわいよ」
真剣な面持ちでカードを選択するアーサーに対し、おちゃらけて返す蓮。だからと言って蓮にも余裕があるわけではない。アーサーは、ゆっくりと息を吸う。指先でカードを一枚、二枚とつまみ上げ、何枚かを弾き捨て――やがて、一枚だけを選び出した。
「pettifogging(ペティフォギング)」
綺麗な発音でアーサーが読み上げた。
「……出たよ」
「レングス12……」
「やべぇ単語来たな」
観客の誰もが知らない単語だ。
「ベットは――十枚だ」
アーサーはそう宣言し、十枚のチップを重ねてポットに差し出す。今までのベットはすべて一枚か二枚。ここで蓮にディフェンスされれば、大きなピンチを迎えてしまうだろう。だが蓮のディフェンスが失敗すれば、ほぼ勝利を手にしたようなものだ。
(くっ……、蓮、どうする?)
ボックス席では広田が険しい目つきで、蓮を見つめていた。ここまで蓮が追い込まれることは滅多にない。最悪の事態が頭によぎる。
> “テン……ナイン……エイト……”
アクションの選択には九十秒が与えられている。残り十秒を切ったとき、ELOHIMによるカウントが始まった。観客たちの視線が、一斉に蓮へ突き刺さる。
(ペティフォギング。字面は分かる。けど、意味は――)
> “セブン……シックス……ファイブ……”
(「こだわる」……とか、そんなニュアンスだった気もする。けど、ここで曖昧な答え出して失敗したら、ポットに加えて十枚持っていかれる……)
> “スリー……ツー……ワン……”
「フォールド」
蓮は、静かに答える。
> “フォールド確認。ターン13、レッドサイドの勝利です”
「ふっ」
不敵な笑みを浮かべながらアーサーがカードを裏返す。
“pettifogging”
ささいなことに関る、くだらない、つまらない
これもあまり使われない難解単語だ。ポットに積まれたすべてのチップが、アーサーの元に運ばれる。
「よっしゃあ! さすがネイティブ!」
「こりゃレート通り……いや、それ以上か?」
観客席から、今までで一番大きな歓声が上がった。
「……クソ」
広田は、奥歯を噛みしめる。
「イギリスでは文学や法廷で多少使われることがあるって感じの単語みたい。蓮はこういうのあんまり得意じゃないかも」
と、ユキナが辞書アプリを操作しながら言った。
「まぁ、今のは降りて正解だ。中途半端に突っ張ってたら、ここでメンタルまで折られてる。蓮、良く耐えたぞ」
広田は自分に言い聞かせるように言ったが、蓮が苦境に立たされたことに紛れはない。
蓮はというと――
負けを悔しがる様子は見せず、ただ静かに手元のカードを弄んでいた。
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