第17話 取り戻したいもの

自分の赤い駒だけになった盤面を見る。


他のやつらは、


「……死んだってことか?」


問いに対して、

ミゼルは声を出さない。


ただ、

唇にだけ、少しだけそのニュアンスを乗せる。


楽しそうな、

期待しているような、

わずかに残酷な色。


盤面から目を離さないまま、

蓮はゆっくりと息を吐く。


みんな死んだのか――


そう思った瞬間、

胸の奥に、鈍い痛みが走る。


だが、視線は逃げない。死ぬつもりだっただろ。今更何を恐れる。


手の中の感触が現実を引き戻す。


返せる。


借金は、もう終わらせられる額がある。


それでも――


空いたままの場所を見つめたまま、

蓮は小さく呟く。


「……返す金は、もうある」


指先に、わずかに力がこもる。


「でも俺が手に入れたいのは――」


一瞬だけ、盤面ではない場所を見る。


そこには誰もいないのに、

確かに彼女の気配だけが残っている。


「いや、取り戻したいのは」


ゆっくりと視線を戻す。


「金じゃない」


沈黙が落ちる。


その沈黙の中で、

ミゼルの唇だけが、

ほんの少し、さらに楽しげに歪んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る