第8話 転がりはじめた運命

「ちゃんと賭けよっか」


ミゼルがそう言うと、公園の空気がほんの少しだけ静まった気がした。


ルカは腕を組んだまま、鼻で笑う。


「賭けるってなに。あたし金ないけど?」


「お金じゃないよ」


ミゼルはポケットからサイコロを取り出した。白地に黒い目の、ごく普通の六面体。けれど街灯の光の下では、その輪郭がどこか柔らかく、はっきりしない。


「なにそれ。手品?」


「チャンス」


さらっと言って、ミゼルはしゃがみ込む。そして何もない地面に手をかざした。


その瞬間、アスファルトの上に淡い光の線が浮かび上がる。道のように伸びるマス目。ところどころに、見慣れない文字が揺れている。


ルカは思わず一歩近づいた。


「……なにこれ」


光る文字は、読めそうで読めない。アルファベットにも漢字にも見えない、崩れた記号のような並び。


「人間には読めないやつ」


ミゼルは楽しそうに言う。


「いやいや、意味わかんないって。あたしまだ死にかけた直後なんだけど」


口ではそう言いながら、視線はボードから離れない。


さっき、確実に終わるはずだった。

あのライトの白さ、ブレーキ音、身体が浮く感覚。


それを、目の前の小さな体が、ありえない力で引き戻した。


ミゼルはサイコロをルカの手に乗せる。


ひやりと冷たい感触。


「さっきの続き、やる?」


「これ振ったらどうなんの」


「進むだけ」


「どこに」


ミゼルは少しだけ首を傾ける。


「ルカちゃんの、次」


その言い方が妙に引っかかった。


次。


今までの延長じゃない、別の次みたいに聞こえる。


ルカはサイコロを指で転がす。


「信じてるわけじゃないし。ただ、暇つぶし」


強がりながらも、口元がわずかに上がる。


「つまんなかったらやめるからね」


ミゼルは満足そうに笑った。


「どうぞ」


ルカは軽く息を吐き、手首のスナップでサイコロを投げる。


転がる音が、公園に小さく響いた。

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