第八章:暗黒の揺りかご


私は、二人に引きずられるようにして、冷蔵庫の裏にある隠し扉の向こう側へと運ばれた。

そこは、埃とカビの匂いが充満する、わずか三畳ほどの空間。壁一面には、私の写真、私が書いた書類のコピー、そして美紀と私が交わしたLINEの履歴がびっしりと貼られていた。


「ここで私たちが、どれだけあなたを研究したか分かる?」

美紀が私の耳元で囁く。その声には、もう新婚当時の甘さはない。


「あなたはここで、誠さんが残した『砂利の味』を噛み締めながら生きていくの。死なせないわよ。あなたが生きている限り、誠さんは『佐伯健一』として公的に存在し続けられるんだから」

ガチャン、と重い錠が下りる音がした。


完全な暗闇。


私がいたはずの明るいリビングからは、楽しげな笑い声と、皿が触れ合う音が聞こえてくる。

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