第37話 鴆の茶と黄雀
【巻ノ一・残頁卅柒:『
「士族は譜牒を重んじ、以て貴賤を別つ。
若し族中の子弟が大逆不道の罪を犯さば、必ず宗祠にて中門を開き、家法を請い、朱筆を以て玉牒上の其の名を除き、祖宗に告祭し、以て宗族の命を全うすべし」
――『
【
現代企業が広報危機に直面した際、真っ先に行うのは、問題を起こした従業員の解雇声明を発表し、会社の責任を綺麗さっぱりと切り離すことだ。
†
宗祠の内に尋常の家の陰冷さはない。床暖房が激しく焚かれ、床には属国から貢がれた温潤な白玉のレンガが敷き詰められている。照明用の長明灯ですら、千金も求め難い鮫人の膏を燃やし、人の骨を酥(とろ)けさせるような異香を放っていた。
この
華服を着た数名の族中の長老が両側に分かれて立つ。皆の顔色は、足元の白玉のレンガよりも死に絶えたように白い。
「太公、情報は確実です。あの庶出にも劣る逆子が、
一人の長老が宝石を嵌め込んだ杖を握り、玉石の床をトントンと重く叩いた。
「国師の私兵はすでに
彼の視線が、細く立ち昇る鮫人膏の白煙を越え、目の前の紫檀木の机に落ちる。
机の上には、亀裂がびっしりと走った古の亀甲が数枚と、とうに干からびた黒血の跡がある。
「あやつが十二歳の時、あの大病から奇跡的に全快して以来。ワシのこの自慢の占卜の術は、二度とあやつの命数を算き出せなくなった」
「あやつはとうの昔に生きているべきではなかったのだ。ここ数年。ワシがあやつを邸宅から追い出し、
長老たちの注視の下。
錠前のカチャッという澄んだ音を伴い。金糸で縁取られた絹布の巻物を捧げ出した。
それは
傍らの侍従が慌てて名貴な端渓の硯を捧げ持ち、暗赤色の朱砂の墨の塊を硯に押し当てる。
スルスルという乾いた研磨音を伴い。数滴の混濁した井戸水と朱砂が混ざり合い、血サビの匂いを放つ濃厚な赤い液体と化した。
筆の鋒が濃厚な朱砂をたっぷりと吸い込み、黄ばんだ玉牒の絹布の上に重く落とされた。
筆の毛が粗い絹糸の紋理と摩擦し、カサカサという引っ掛かる音を立てる。
暗赤色の汁液が筆先に沿って滲み広がる。さながら新鮮な刀傷のように、「
「
「馬車を用意せよ」
宗祠の重い銅張りの大門が閉まろうとした、その瞬間のことだ。
宗祠の外、回廊の角の影の中に、音もなく一人の人間が蟄伏していた。
門の隙間から漏れ聞こえた「除名」の判詞と、
直後。粗末な蓑衣がそびえ立つ
†
同じ時刻。
ここに陽光はない。一年中燃え続ける鯨の油の松明だけが、湿った青レンガの壁に歪んだ影を投射している。
空気には濃厚な鉄サビの匂いと、長年消えない血生臭さが漂っている。暗苔の生えた丸天井に沿って水滴が落ち、凸凹の地レンガに叩きつけられ、ピチャッ、ピチャッという単調な水音を立てている。
指揮使の
分厚い掌で、安息国から産出された硬い胡桃を一つ握りしめている。バキッという歯の浮くような鋭い音を伴い、硬い胡桃の殻が片手で握り潰された。
彼はゆっくりと砕けた殻を払い除け、太い指で中の苦渋い薄皮をほじくり出し、白く柔らかな果肉を口に放り込む。クチャクチャという咀嚼音を立てた。
机の前方では、玄色の彪服を着た百戸が片膝をついてひざまずいている。背後の緹騎(護衛)の鎧の札が、身体の震えに合わせてガシャガシャと微細な衝突音を立てている。
「指揮使大人。
「どこへ行くというのだ?」
百戸は言葉に詰まり、顔面蒼白となって冷や汗を流す。深く頭を下げ、二度と発言する勇気はない。
権術を弄するこの論理を、この
国師のここ数年の朝廷での専横と、民を労し財を傷つけるあの「天を窃み柱を換う」大陣の敷設は。とうに
「
「令を伝えよ。外にいるすべての緹騎を召還しろ。ただ今より、鎮撫衙門の九門を固く閉ざせ。すべての緹騎は刀剣を鞘に納め、本官の手令なくば、何人たりとも衙門から半歩も出ることを禁ずる」
「明日の黄昏、奴らには勝手に犬の噛み合いをさせておけ。もし
「奴は
†
皇城の奥深く。東宮の武庫。
太子の
彼は金糸で四爪の蟒蛇の紋様が刺繍された普段着を着て、足元には極めて精巧な作りの鹿皮の柔らかい靴を履いている。この皇室特有の華貴さは、周囲の粗糲で氷のように冷たい戦争の機械と強烈な視覚的断絶を形成している。
彼の目の前には。体積が巨大で、まるで腹這いになった巨獣のような「三弓床弩」が三基停められている。
七、八人の上半身裸の、筋肉が隆起した職人たちが。鈍い掛け声を上げながら、両手で床弩の後方にある巨大な巻き上げ機を死に物狂いで握りしめている。
歯の浮くようなギシッ、ギシッという歯車の噛み合う巨響を伴い。太い牛筋の弓弦が少しずつ後方へ引き絞られていく。巻き上げ機の青銅の歯車が互いに摩擦し、目を刺すような火花が数点散る。
「カチャン」
澄んだ、だが鈍い金属のロック音が鳴る。弓弦は青銅の機関の凹みに死に物狂いで嵌まり込んだ。
矢の溝には、長さ七尺に達し、矢じりが精鋼で鍛造された巨大な鉄の長槍が静かに横たわっていた。
「殿下。三千の死士はすでに全員甲冑を着込み、玄武門の両側の抜け道に暗中潜伏しております。ただ明日の黄昏、逢魔の刻の到来を待つばかりでございます」
「父皇の喀血の症はすでに薬石効なき域に達している。国師の老犬め、十万人の陽気を使って父皇の命を長らえさせ、以て己の『一人之下、万人之上』の権力を保とうと妄図しておる」
「明日の黄昏、大典が起動する。国師の全神経は必ずや祭壇の陣の目に牽制されるはずだ。それこそが奴の最も無防備な時刻」
「令を伝えよ。皇宮の奥深くの瑠璃の光柱が点灯した瞬間。三千の死士は直ちに玄武門を突き破れ。この三基の床弩は、本宮のために太極殿の玉の階段の下へ直接押し進めよ。本宮は見てみたい。国師のあの呪符がびっしりと描かれた紫の袍が、この城壁をも引き裂く破甲の鉄錐を防ぎきれるかどうかをな」
†
烏衣巷の宗祠の大門がゆっくりと閉じ合わさる。
鎮撫衙門の鉄門は固く閉ざされ音もない。
東宮の武庫では、弩の弦が満月のように張り詰められている。
すべての者が待っている。
明日の黄昏を。
あの一筋の瑠璃の光が、点灯するのを。
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